「美人妻スキャンダル」を公開処刑でつぶした金正恩

ロシアのアレクサンドル・マツェゴラ駐北朝鮮大使は先月29日(現地時間)、ロシア国営タス通信とのインタビューで「5月31日の(ビラ)散布は北朝鮮指導者の夫人に向かった低劣で侮辱的な宣伝戦の意味合いを持ち、フォトショップまで利用した低劣な方式で行われたため、北朝鮮指導部はもちろん住民たちの間でも強い怒りを呼び起こした」と語った。

韓国の脱北者団体などがこれまで長年にわたり行ってきた対北ビラの散布に対し、北朝鮮は先月、突如として、韓国との南北共同連絡事務所を爆破するなどの強硬措置に出た。マツェゴラ氏の言葉は、その背景を語ったものだ。

韓国のSNSなどではこの少し前から、「以前、脱北者団体が北朝鮮に飛ばしたビラ」であるとして、日本のAVのパッケージに金正恩党委員長の夫人・李雪主(リ・ソルチュ)氏と、韓国の廬武鉉大統領の顔を合成した写真が出回っていた。それを見た人々からは、「こんなものを送ったら、北が怒るのも当然だ」などの反響が出ているという。

しかし韓国メディアの報道によれば、このビラは7年前のもので、散布したのも最近注目の脱北者団体・自由北朝鮮運動連合ではなく、別の右翼団体だという。

7年前、つまり2013年と言えば、李雪主氏がかつて在籍した銀河水(ウナス)管弦楽団と旺載山(ワンジェサン)芸術団の芸能人9人が、無残に処刑された年だ。理由はポルノビデオを秘密裏に作ったからだとか、そうではなく李雪主氏の結婚前の「異性関係」と関連があるのだとか、ふたつの説が囁かれている。

いずれにせよ、金正恩氏は自分の妻と関連した醜聞を、公開処刑でつぶしたのだ。右翼団体のビラ散布は、そのようなタイミングと重なっていたことになる。

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筆者は、ビラ散布それ自体には反対ではないが、内容は真摯なものであるべきだと思う。ビラの大半は北朝鮮住民に届いていないとされ、効果は薄いとする見方が多い。一方である脱北者は、「金王朝の秘密を暴露するような内容であれば、手に取った北朝鮮住民への影響は大きい」とも言う。実際、デイリーNKジャパンが入手した、自由北韓運動連合が最近散布したとされるビラは、金王朝の秘密を暴露する内容だが、7年前のものとは質的に異なる。

ビラにせよほかの方法にせよ、北朝鮮の国民に外部情報を伝える手段は限られている。せっかく届いても、その内容が真摯なものでなければ、北朝鮮の人々が受ける印象も良いものにはならないのではないか。もっとも、写真を合成するようなことをしなくても、インパクトを強める方法はいくらでもある。たとえば、前述したような芸能人処刑の一件について書くのもいいだろう。彼らが処刑された理由が、自由世界では罪にすらならないという事実を伝えることは、北朝鮮の人々に「自由とはどんなものか」を考えてもらうきっかけ作りになるのではないか。