北朝鮮が若者数十人の「見せしめ映像」公開…韓流にハマった罰

現在、Netflixで配信中の韓流ドラマ「愛の不時着」。パラグライダーの事故で北朝鮮領土に落ちてしまった韓国の財閥令嬢ユン・セリと、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の生真面目な将校リ・ジョンヒョクが南北を股にかけて繰り広げるラブコメディだが、そこに描かれるリアルな北朝鮮の姿にも注目が集まる。

例えば、空腹を訴えるセリのためにジョンヒョクがトウモロコシ麺を作るシーン、村の人々が一堂に会して律動体操(北朝鮮版ラジオ体操)を踊るシーンなど、北朝鮮のプロパガンダメディアに登場することのない、飾らぬ北朝鮮の人々の暮らしの描写は、脱北者の間でも評判となった。

金正恩党委員長や、妹の金与正(キム・ヨジョン)党第1副部長は韓流取り締まり令を出しているが、その対象は「韓国風の言葉」にまで及んでいると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。

(参考記事:金与正氏が「韓流狩り」を指示…『愛の不時着』も標的か

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の住民によると、今月3日と4日、清津(チョンジン)の各機関、組織で講演会が行われた。登場した中央の幹部が語ったのは「南朝鮮(韓国)傀儡どものカスのような言葉を真似する現象を徹底的になくすことについて」との内容だ。つまり、韓国風の言葉を真似する現象を取り締まるということだ。

講演会では、これに違反した若者たちが罰を受ける様子を収めた映像も上映された。

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北朝鮮も韓国も、朝鮮語、韓国語と名称は違えど同じ言語を使っている。しかし、地域によって、語彙やアクセントに大きな差がある。例えば、咸鏡北道の言葉は朴訥な印象を受ける。

一方、北朝鮮の人々にとって、ソウルの言葉はソフトでおしゃれに聞こえるようだ。「愛の不時着」にも、宿泊検閲(部外者の無断宿泊の取り締まり)の際に、「ご飯が炊けました」とソウル言葉が自動で流れたことで、韓国製の炊飯器を隠し持っていることが人民班長(町内会長)にバレるシーンがある。

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講演会で上映された映像には、そんなおしゃれな言葉を真似していた「容疑」で逮捕された数十人の若者が、ボウズ頭にされて足かせをはめられてひざまずかされ、取り調べを受けるシーンが登場したとのことだ。

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続いて映像に登場した幹部は、衝撃的な数字を口にした。全国的に国民の70%が韓流映画やドラマを見ているというのだ。

当局は今月から、南朝鮮文化の浸透を防ぐための思想教養事業を繰り広げると同時に、法的処罰を大幅に強化するなど、ありとあらゆる方法を動員して韓流撲滅を目指しているが、情報筋は「もう手遅れ」だと見解を語る。

「すでに人々の中に深く根を下ろした南朝鮮文化に対する好感と誘惑を、完全に遮断するのは不可能だ」(情報筋)

平壌市の司法機関の幹部によると、金正恩氏は今年5月、「異色的(良からぬ)思想文化との闘争を強く繰り広げよ」との指示を下した。それに基づき、平壌市社会安全部(警視庁に相当)が5月中旬から2ヶ月にわたり取り締まりを行った結果、70人の若者を摘発した。

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若者たちは、「言語生活におけるチュチェ(主体)性と、民族性を守らずに反動的な南朝鮮式単語と発言、語彙、表現を真似して、流布した」という容疑で勾留されているという。前述の動画に登場するボウズ頭の若者たちとは、このときに摘発された人たちだ。

この幹部は、平壌の若者にも韓流ドラマ、映画を通じて韓国式の言葉が定着したとしつつも、今までは取り締まってもワイロと引き換えに大目に見ていたが、今後は党、法、行政の各レベルでの処罰がさらに強化されると述べた。

韓流ドラマ、映画の北朝鮮への流入は、1990年代中盤ごろから始まった。当初は、ビデオテープが中国で複製された上で流通する形だったが、取り締まりを避けるために、VCD、DVD、USBメモリ、SDカードなど、保存するメディアがどんどん小さくなっていった。

当局は、処刑も含めた厳しい取り締まりを行ってきた。韓国文化への憧れは、体制を脅かす危険要素と見ているからだ。

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しかし、20数年経っても韓流人気は絶えることがない。ドラマ、映画、バラエティなど映像コンテンツにとどまらず、北朝鮮の人々の暮らしのあらゆる面に影響を及ぼしている。

つまり、映像コンテンツの流入を完全にシャットダウンしたとしても、韓流により変容してしまった北朝鮮の文化を元に戻すことは不可能に近い。韓国の人気料理ユーチューバーのレシピが、韓国のものであるとわからないように文字にした上で北朝鮮に持ち込まれている事例は、韓流根絶が不可能であることを示している。

(参考記事:北朝鮮の「奥様」を魅了した料理ユーチューバー