「処刑場の妊婦」残酷ショーを利用した金正恩の統治術

北朝鮮は今月10日の朝鮮労働党創建75周年に際し、大赦(恩赦)を実施した。

金正恩党委員長は政権の座に就いて以降、2012年4月15日の金日成氏生誕100周年、2015年10月10日の朝鮮労働党創建70周年などに合わせて大規模な赦免を行ってきた。たとえば2018年には、9月9日の建国70周年を控えて8月1日から赦免を実施し、管理所(政治犯収容所)を除くすべての教化所(刑務所)に収監されている受刑者に対して一律3年の減刑を行われ、多くの人が釈放された。

これは、最高指導者の「慈愛」を強調する「贈り物政治」の亜種とも言える。つまり、全人民は高い徳を持った最高指導者の思し召しで幸せに暮らすことができるという「人徳政治」(徳治主義)だ。

それは金正恩氏が10日の閲兵式で行った演説で、慢性的な経済難に耐えることを強いられている国民に繰り返し感謝と謝罪の意を述べたことにも表れている。そして、金正恩氏が自らの「人徳」を究極的な形で表したのが、2014年10月のある日の出来事である。

その日、平壌市南部にある力浦(リョクポ)区域の河川敷には、多数の住民が集まっていた。軍需物資を横領して逮捕された将校と、その妻である30代女性の公開処刑が予告されていたためだ。

2人は猿ぐつわを噛まされ、黒い布で目隠しされた状態で、杭に縛り付けられていた。軍の検察官と裁判官が判決を読み上げたのに続き、射手を務める兵士たちが位置に着いた。銃声が鳴り響き、死刑が執行された。

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ところが妻はしばらく後、病院のベッドの上で意識を取り戻した。軍当局者が妻に説明したところでは、夫は予定通り処刑されたものの、現場に伝えられた緊急指令により、妻の処刑は撤回されたのだという。

妻は当時、妊娠4カ月だった。それを知った金正恩氏が「母親の罪を新たに生まれる生命にまで問うのはわが党の人徳政治に反する」として、死刑の執行中止を命じたのだ。公開処刑という究極の「残酷ショー」を逆手に取り、自らの慈悲深さを強調する「感動の逸話」に作り替えたのだ。

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金正恩氏の期待通り、北朝鮮はこの話で国中が持ちきりになった。当局はそれに乗じ、金正恩氏の「人徳政治」を徹底的に宣伝した。

ただ、妻は犯した罪を完全に許されたわけではなかった。翌年に出産を終えるや、当局に再逮捕され、無期懲役を言い渡された。この話を伝えたデイリーNKの内部情報筋によれば、北朝鮮の国民の多くは、彼女が今も幸せに暮らしていると思い込んでいるという。