父・金正日がまいた「犯罪の種」に苦しむ金正恩

北朝鮮は、とにかく薬物犯罪の非常に多い国だ。その種を蒔いたのは、あろうことか先代の最高指導者である金正日総書記だった。

1980年代から金正日氏の指示により、北部山間地域の大規模な農場で「白桔梗(ペクトラジ)」の名でアヘンが栽培された。その後、国営製薬工場では覚せい剤を製造するようになったが、横流しにより国内にも流通。おりしも当時は大飢饉「苦難の行軍」の真っ只中だった。人々は生き抜くために覚せい剤の密売を始め、国内では中毒者が急増した。

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国内有数の鉄鉱石推定埋蔵量を誇る鉱山を擁する咸鏡北道(ハムギョンブクト)の茂山(ムサン)は、比較的豊かな町だったが、ところが、国連安全保障理事会が相次いで採択した対北朝鮮制裁決議で、輸出ができなくなり状況が一変。鉱山の操業が途絶え途絶えになり、ヤマを降りる人が続出。茂山はすっかり活気を失ってしまった。

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そこで、金正日氏が蒔いた種が、再び芽吹いてしまった。

国家保衛省(秘密警察)は今年初めから、茂山郡において大々的な検閲(監査)を行った。その結果、幹部3人が摘発されたことはデイリーNKでも報じたが、3人の肩書や、容疑については「私的な蓄財」以外の情報はなかったが、今回詳細が明らかになった。

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摘発されたのは、茂山郡保衛部の反探課(スパイ担当部署)と、617課(麻薬担当部署)の課長、そして、茂山鉱山の保衛部長(秘密警察のトップ)の3人だ。

国家保衛省による検閲で、保衛部長が、外貨稼ぎ事業の収益に手を付けていたことが発覚したことをきっかけにして、芋づる式に様々な不正行為が明らかになった。

検閲と総和(総括)終了後、しばらく音沙汰がなかったが、今年7月になって事態が急変した。3人が摘発され、解任、撤職(更迭)されたのだ。

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617課の課長は、麻薬取り締まり権限を乱用し、麻薬の密売人とグルになって、家族を巻き込んで覚せい剤の密売を行い、ワイロもせしめていた。家宅捜索の結果、自宅からは莫大な量の覚せい剤が発見された。

課長は「取り締まりで押収したもの」だと言い逃れを図ったが、国家保衛省の検閲要員は「そんな言い訳など必要ない」と問答無用で課長を連行した。一方の反探課の課長だが、逮捕容疑についてこれといった話は出ていなかった。ところが、後になって保衛部長まで含めて3人全員が、密売に関与していたことが明らかになった。

取り締まり班は、3人が乗り回していた自家用車を没収。暴露された贅沢な暮らしぶりに、庶民は開いた口が塞がらない様子だったという。また、彼らの自宅からは大量の現金も発見されたが、その行方についてはわかっていない。

3人の摘発で、地元の幹部のみならず、一般市民の間でも緊張が続いているとのことだ。

中国との国境地域では、覚せい剤などの違法薬物が蔓延し、摘発が行われているものの、未だに根絶には至っていないようだ。

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は2010年7月、郡内の西豊山(ソプンサン)駅に停車中だった清津発茂山行きの列車の車内で、覚せい剤5キロが発見され、捜索のために列車は5時間もの停車を余儀なくされたと報じている。また、茂山に隣接する会寧(フェリョン)では、2007年12月に税関長、保安署(警察署)の課長が覚せい剤の密売で摘発されている。2012年5月と2013年2月には、それぞれ麻薬事犯を含めて18人の公開裁判が行われた。

極めつけは、市のトップクラスの幹部が、密売組織のボスだったという事件だ。

会寧では2005年2月、地元の朝鮮社会主義女性同盟のソ・ギョンヒ委員長と、夫で朝鮮人民軍(北朝鮮軍)総参謀部直属の貿易会社、メボン会社の元社長、実の娘、夫の元部下ら合計で30人余りが、大規模な覚せい剤の密売組織を運営していたことが判明し、一斉に逮捕されている。

市の最高幹部という地位を悪用し、清津(チョンジン)で仕入れた覚せい剤を、茂山、穏(オンソン)城など、道内各地に卸すビジネスを行い、荒稼ぎしていた。家宅捜索の結果、委員長の自宅からは、覚せい剤15キロ、30万ドル、20万人民元が押収された。15年前の事件だが、密売一家に対してどのような処分が下されたについては、未だにわかっていない。

(参考記事:北朝鮮の現職市女性同盟委員長の自宅から覚せい剤15キロ発見