「禁断の行為」で逮捕された北朝鮮エリート科学者の運命

北朝鮮随一の科学研究施設、国家科学院。傘下に110もの研究所を擁し、在籍する超エリート研究者は約3000人。研究分野は多岐に渡り、味噌などの発酵食品から核兵器に至るまで、様々な研究、開発を行っている。

毒ガス、覚せい剤の研究も行われていたようだ。

(参考記事:北朝鮮の一流科学者が謎の死、「毒ガス実験中」との噂

そこで働く40代半ばの研究者が突如として逮捕された。咸鏡南道(ハムギョンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

逮捕されたのは、国家科学院の咸興(ハムン)分院の生物分野研究室で副室長を務めるハン氏だ。その経緯は次のようなものだ。

今に至るまで国内での新型コロナウイルス感染者発生を認めていない北朝鮮だが、当局は昨年、この研究室に対してこのような指示を下した。

「新型コロナウイルスの防疫に使う消毒薬を早急に開発せよ」

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当時は朝鮮労働党第8回大会で示す成果を無理にでも作り出すための成果拡大キャンペーン「80日戦闘」の最中。とりあえず「やってる感」を出すために、タイムリーなアイテムの開発を命じたのだろう。

そんな指示を聞いたハン副室長は、重要な課題を短期間に達成せよという指示は矛盾している、人員を補充してくれるのならともかく、今はそんな余裕がないと、ついつい愚痴ってしまい、他の研究者も同調した。

研究者たちは、すでに抱えている課題があり、それで学位を取得しなければならないのに、同時に他の課題まであれこれ抱え込むのは困難な状況だった。それなのに、党からも幹部からも早くしろと催促され、心血を注いできた研究を中止することになり、ついつい不満を口にしてしまったようだ。

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しかし、新型コロナ対策を巡っては、金正恩総書記が「違反者には軍法を適用しろ」と命じた経緯もある。逮捕され、処刑された人々は数百人に上るとされる。そのような状況で上層部の指示に意見するのは、禁断の行為と言えるかもしれない。

(参考記事:「気絶、失禁する人が続出」金正恩、軍人虐殺の生々しい場面

案の定、ハン副室長の発言は何者かにより密告されたようだ。安全部(警察署)は12月6日、ハン副室長を逮捕した。容疑は「国のおかげで勉強できていいポストにつけたのに、党の政策にあれこれ言って真正面から歯向かう恩知らず」などというものだ。

これに対して研究者たちは「党の政策に異見を挟んだのではなく、今までやって来たことを辞めなければならないのがもどかしくて言っただけなのに、逮捕するほどのことなのか」とハン副室長を擁護している。

今のところ、ハン副室長に対する処分は決まっていない。研究所を追い出され、一介の労働者として残りの人生を送ることになるだろうというのがもっぱらの噂だ。研究者としては「死刑宣告」も同然だが、管理所(政治犯収容所)送りや処刑を逃れただけでマシかも知れない。

(参考記事:北朝鮮、感染者を処刑か…金正恩式「新型コロナ対策」の冷酷無比

コロナ対策で社会全体が疲弊し、あちことで不満がくすぶっている。当局は、ちょっとした政府批判でも「マルパンドン」(言葉の反動=反政府的言動)として取り締まっているが、ちょっとした愚痴ですら、体制を揺るがす大きな不満に繋がりかねないと怯えているのだろう。

(参考記事:町内会長に「禁断の発言」をぶつけた北朝鮮女性が処刑の危機