「金正恩命令」もはや効き目なし…北朝鮮で起きていること

北朝鮮には法律も司法制度も存在するが、恣意的な理由で捻じ曲げられることが少なくない。また、法律があっても金正恩総書記の「鶴の一声」の方が優先される。金正恩氏が気に入らない相手は、何の法的手続きすら踏まず、死刑にされてしまうほどだ。表向きは法治主義国家ということになっているが、実際は人治主義の絶対王朝なのだ。
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何よりも優先される金正恩氏の命令ではあるが、実際はその場限りで、時間が経つにつれ有耶無耶になることもしばしばある。中でも、齟齬をきたしているもの、実効性に欠けるもの、現実に即していない命令ほど、そのような傾向が強い。

金正恩氏が、今年1月の朝鮮労働党第8回大会の結語で、反社会主義的・非社会主義的傾向(風紀の乱れ)、権力乱用、不正・腐敗などと並べて犯罪行為だと指摘した「税金外の負担」もその一つだろう。

命令が下された直後から、違反事例が相次いでいることは、デイリーNKでも既報の通りだが、さらに拍車がかかりつつある。
(参考記事:金正恩氏の「税金外の負担」禁止令、違反事例相次ぐ

咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋は、今月15日に清津(チョンジン)市羅南(ラナム)区域の人民委員会(区役所)で行われた洞事務所(末端の行政機関)の所長会議で、くず鉄と油の取れる作物を28日までに集めるよう指示が下されたと伝えた。

洞事務所長は、人民班(町内会)会議で、社会的課題と国防力を強化するためのものであるから、公民としての自覚を持って義務として参加すべきだと強調した。住民に課されたノルマは1世帯あたりくず鉄7キロと、油の取れる作物2キロだ。達成できない場合には、代わりに現金3万北朝鮮ウォン(約69円)を収めることを強いている。

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区域内の羅興(ラフン)1洞の貧しい住民からは「日々食いつなぐための食べ物を買うカネもないのに、どこからカネを絞り出せというのか」と抗議の声が上がり、洞事務所長や人民班長との口論が頻繁に起きているという。

くず鉄や大豆をかき集めたところで、国防力の強化に繋げるのは非現実的だ。人民委員会のホンネは「カネが欲しい」だろう。住民からも、国防力強化という朝鮮労働党の方針を巧妙に利用してカネをかすめ取るものだと非難の声が上がっている。

情報筋は、中央は税金外の負担をやめろと言っているが、地方当局はこの手のノルマを頻繁に出しており、末端の幹部は中央の指示を言い訳に住民に税金外の負担を転嫁し続けていると批判した。地方当局は、一貫性なく乱発される、中央からの指示や命令の類を、都合よく利用しているのだ。「税金外の負担はやめろ」という金正恩氏の命令は、かくして有耶無耶にされてしまう。

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住民側に抵抗する手段がないわけではない。法律をよく知る住民による信訴(告発)で、税金外の負担が摘発された事例もあるが、信訴をやめさせようと圧力をかけてくる地方幹部に対抗できるだけのカネとコネのある人がいなければ、この手を使うのは難しいだろう。
(参考記事:金正恩氏が禁じた「税金外の負担」で摘発事例