「二度と戻りたくない」北朝鮮 “流刑地の妻たち” が恐れるもの

昨年の台風で甚大な被害を受けた、北朝鮮・咸鏡南道(ハムギョンナムド)端川(タンチョン)市の検徳(コムドク)鉱山。

北朝鮮最大の亜鉛鉱山だけあって、被災の1ヶ月後に金正恩総書記が訪れ、地域の復興について事細かく指示するなど、並々ならぬ関心を見せていた。被災から1年以上経ち、ようやく住宅再建が最終段階に達したが、新たな問題が浮上している。咸鏡南道のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

(参考記事:北朝鮮最大の亜鉛鉱山、台風で坑道すべて水没し死者多数

現地の労働者が入居予定の住宅は、内装工事が終わり、すぐにでも入居できる状態となった。既に入舎証(居住許可証)を受け取った人もいる。鉱山労働者は今年末までに優先的に入居させ、それ以外の人々は来年4月15日の太陽節(金日成主席の生誕記念日)までに入居させる予定だという。

金正恩氏は来年の太陽節までに現場をもう一度訪れると述べただけあって、道党(朝鮮労働党咸鏡南道委員会)軍事委員会の委員が現場で工事の進捗状況を見守っており、道党の責任書記(地域のトップ)も、週に3日は現地入りしている。

北朝鮮の新築住宅は、基本的な内装工事だけ終えた時点で入居者に引き渡されるのが一般的だが、入舎証を受け取った人は、実際に住めるように室内の工事を行っている。

すべてが上手く行っているように見えるが、ここで問題が浮上した。被災後、実家に身を寄せていた女性たちの一部が、「検徳には戻りたくない」と言い出したのだ。鉱山の運営当局が、入舎証を出す過程で対象者の調査を行ったところ、100人あたり7人の妻たちが「検徳に戻らず離婚する」と言っていると明らかになった。

人気記事:金正恩氏が反応「過激アンダーウェア」の美女モデル写真

人気記事:女性芸能人たちを「失禁」させた金正恩氏の残酷ショー

これに対して、鉱山の党委員会、労働課、建物課のイルクン(幹部)3人が、離婚すると言い出した女性のもとを訪れ、「生活の全てを責任を持ってケアする」などと言って、本人や両親の説得に乗り出した。

それだけで説得しきれない場合には、両親の属する党委員会、朝鮮職業総同盟(職盟)、朝鮮社会主義女性同盟(女盟)の力まで借りて説得を行っている。

「検徳の鉱夫はいかなる鉱夫か。首領様(金日成氏)、将軍様(金正日総書記)、元帥様(金正恩氏)と引き継がれてきた金の谷の鉱夫ではないか。そんな鉱夫の妻なら夫の面倒を見るべきではないのか」(イルクン)

人気記事:金正恩氏が反応「過激アンダーウェア」の美女モデル写真

人気記事:女性芸能人たちを「失禁」させた金正恩氏の残酷ショー

それでも聞き入れない場合には、本人と両親を思想教養(教育)して、「戻らないのならば(政治的に)問題視する」などと警告している。詳細はわからないが、説得がかなり難航しているようだ。

彼女らが検徳行きを拒否する理由は、その生活環境にある。

端川市の中心部から100キロほど内陸に入ったところにある検徳は、周囲を急峻な山に囲まれている。
(参考記事:北朝鮮「陸の孤島」で響き渡る悲鳴…飢えた市民の禁断の行為

他の山奥の村よりははるかに優遇されているとは言え、生活環境が劣悪であることには変わりなく、国際社会の制裁とコロナ鎖国で、生活苦に拍車がかかっている。彼女らは「育児は妻の役割だが、(鉱山から)もらえる配給品が少なく生活が苦しい」と訴えているという。

沿岸部の都市とは異なり、人口が多くないため、市場で商売をしたところでさほど儲けにはならず、生活は配給頼りにならざるを得ないのだ。もし配給が完全に途絶えたとすれば、餓死に追い込まれかねない。

また、新たに住宅を建ててもいつまた災害に襲われるかわからないという不安感もあり、「自然災害が起きるたびにあちこち点々として生きるのは嫌だ」とも訴えている。新たに建設された住宅の一部は、その後の大雨で崩壊、浸水していることを考えると、杞憂とは言えない。今年の大雨で崩壊した露天鉱山が復旧されず、放置されていることも不安感を増幅させている。
(参考記事:金正恩の「復興住宅」大雨であっけなく崩壊…被災地で混乱

それだけではない。北朝鮮で鉱山は革命化(流刑)の地として使われることもあり、極めてイメージが悪い。復旧工事に従事するために検徳に派遣された朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の兵士の一部は、除隊後に検徳に残るよう指示され、嘆きの声を上げている。
(参考記事:「こんなに残酷なことはない」北朝鮮兵士も動揺する無慈悲な命令

鉱山側は、年末の計画総和(総括)を控え、生産量を増やすために、賞金を支払うことにした。最も功労の大きかった労力革新者には最大で50万北朝鮮ウォン(約1万1500円)という、鉱山労働者の給料の16年6ヶ月分に相当する高額の賞金を出すという。ただし、支給は現金ではなく「トンピョ」と呼ばれる金券だ。

トンピョに関してはその発行目的が明らかになっておらず、外貨兌換券であるとの見方と、コロナ鎖国によるインク不足で印刷ができなくなった紙幣を補う金券に過ぎないとの見方があるが、情報筋が「トンピョであっても、それさえあれば食糧販売所で穀物が買えて、商店で生活必需品が買える」と述べていることを見る限り、少なくとも現地では価値が低いものとされているようだ。
(参考記事:北朝鮮が一度失敗した「外貨兌換券」制度復活へ