「金正恩命令」が易々と無視される北朝鮮の本当の現実

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北朝鮮の金正恩総書記は、昨年1月の朝鮮労働党第8回大会の結語で次のように述べている。

全党的、全国家的、全人民的に強力な教育と規律を先行させて、社会生活の各分野で現れているあらゆる反社会主義的・非社会主義的傾向、権力乱用と官僚主義、不正・腐敗、税金外の負担などあらゆる犯罪行為を断固阻止し、統制しなければなりません。

(参考記事:経済を最優先、核戦略では妥協せず…金正恩氏、党大会で結語

北朝鮮の最高人民会議は、1974年3月に開かれた第5期第3回会議で、「税金制度を完全になくすことについて」という法令を採択。金日成主席は同年4月1日には税金制度の撤廃を宣言した。それ以来「我が国(北朝鮮)に税金なるものはない」というのが北朝鮮の公式見解だ。

ところが、地方政府などがありとあらゆる名目で、市民から金品を供出させているのが現実。非常にウケの悪いこのやり方を、金正恩氏はやめさせようとしたわけだが、「鶴の一声」も効き目がないようだ。

北朝鮮において最高指導者の権威に挑戦すれば極刑を免れないのだが、それでも、金欠の行政としては背に腹は代えられないのだろう。
(参考記事:金正恩命令をほったらかし「愛の行為」にふけった北朝鮮カップルの運命

咸鏡南道(ハムギョンナムド)のデイリーNK内部情報筋は、咸興(ハムン)市で行われている税金外の負担の強制に、市民から強い不満の声が上がっている現状について伝えた。

現在、咸興市ではしばらくなかった、「社会的課題」の総和(総括)事業が進められている。この社会的課題とは、何らかの製品を生産するに当たって必要となる、くず鉄、古紙、ハギレ、動物のレザーなどを収集して供出するもので、出せない場合には代わりに現金を支払うという、「税金外の負担」だ。
(参考記事:北朝鮮の少年少女を苦しめる「気持ち悪い」冬休みの課題

咸興市人民委員会(市役所)は、洞事務所(末端の行政機関)の長を集めて開いた会議で、今回の社会的課題は軍人に送る石鹸であることを住民に明確に認識させ、生活が苦しくとも朝鮮労働党に対する忠誠心を持って、8月末までに社会的課題を完了せよと通告したことが伝えられた。

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市内の坪水洞(ピョンスドン)の人民班(町内会)の会議では、各世帯にそれに必要な材料と量を示し、現物または現金で納めるように指示が下された。その内訳は、くず鉄が8キロ、古紙が2キロ、油脂植物が1.5キロで、昨年と比べて500グラムから1キロ増やされた。現金の場合、額は示されていないが、昨年の倍になったとのことだ。

人民班長は「現物よりは現金の方が簡単で楽ではないか」と、暗に現金で支払うことを要求するが、情報筋は「党から住民に税金外の負担をさせるなという指示を明らかに下したと聞いているが、依然として負担をさせている」として、怒れる住民の声を伝えた。

「コメがなく飢えている世帯も多いというのに、現物がなければカネでもいいから無条件で納めろと言われ、頭にきてたまらない。カネがあるならばこんなに飢えているもんか。課題の品を納めなければ、毎日何度も人民班長がやってくるが、頭に来た人は、人民班長に抗議して、ありとあらゆる罵詈雑言をあびせかけている」(坪水洞の住民)

人民委員会のホンネは、「モノよりもカネが欲しい」ということなのだろう。元々、人民委員会の「税収」は、市場で商売する商人が納める市場管理税(ショバ代)が多くを占めているが、コロナ鎖国による景気の悪化で商売を畳む人が増え、税収も激減しているようだ。

予算が不足していても、上部から実行を命じられたプロジェクトをやらないわけにはいかない。「税金外の負担は許さん」と言った金正恩氏だが、一方でそれを破らざるを得ない命令を下すというあべこべのことをしているのだ。
(参考記事:金正恩「忠誠のちびっ子計画」に学童父母が猛反発

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