北朝鮮の軍中枢でも「飢え」広がる…ミサイル発射は「強がり」
しかしその一方、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の内情は惨憺たるものだ。
軍の中枢機能を担う総参謀部の指揮部。超の付くエリートが集められた集団だけあり、待遇も非常に良かった。ところが最近、その指揮部内で不安が広がっている。いかなる場合にも止まることのなかった食糧配給が、2カ月に渡って止まってしまっているのだという。詳細を、デイリーNKの軍内部情報筋が伝えた。
総参謀部指揮部の食糧供給所は、9.9節(共和国創建日、建国記念日)に合わせて、遅配となっていた8月、9月の2カ月分の食糧配給を実施した。ただし、勤務する軍官(将校)本人の分だけで、家族の分は配給されなかった。
(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為)
規定では、1人あたり1日700グラムの食糧が配給されることになっている。単純計算すると、1ヶ月に穀物、野菜、油など21キロが配給されるが、1人なら充分な量でも、例えば4人家族がこれで1カ月食べつなぐにはかなり苦しい。
食糧供給所は「11月になれば、家族分の配給もまとめて行えるようだ」と曖昧な答えを繰り返すばかりで、軍官の家族の間では「もらえないのではないか」と、不安が高まっている。
去年の場合、家族分の配給が1カ月だけ遅配したことはあったが、今年は2カ月分。こんなことは近年なかったことだという。
そんな状況にもかかわらず、上部は愛国米と称してコメの献納をさせており、「このままでは粥を食べかねればならない」と嘆きの声が上がっている。
ただ、麦、ジャガイモ、大豆、トウモロコシなども不作が伝えられており、コメの豊作も期待できないのが現状。多少マシにはなるかもしれないが、根本的な解決は難しいだろう。
(参考記事:大雨に猛暑で深刻な北朝鮮のジャガイモ不作、収穫放棄地も)
軍官たちは「一つでも口減らしをしなければならない」と、両親や民間人のきょうだいの住む家に家族を疎開させている。また、直属区分隊の下戦士(二等兵)のうち、実家の経済状況の良好な者を密かに選び、10月から2カ月間の冬季訓練準備期間の間に、彼らを連れて実家に帰宅させ穀物を調達してくるという、苦肉の策を取っている。
かつては社会的地位が高く、誰もが羨む職業だった軍官だが、今では苦境に追いやられ、通常勤務や訓練にも支障をきたす始末。末端の兵士の状況はさらにひどく、栄養失調で一時的に帰宅させられたり、食べ物欲しさに農場や民家を襲撃したりするなどしている。
ミサイル発射で外に向けて強がってみても、軍の実態が末期症状にあることは、今や国民すべてが知っているのだ。
(参考記事:「燃料」奪い合いで農民が兵士を撲殺…悲惨すぎる北朝鮮軍の内情)