新型コロナ「買い占め」混乱下で金正恩がハマる自滅の道

新型コロナウイルスのパンデミックにより、世界経済は1920年代の大恐慌以来の不況に陥っている。それは北朝鮮とて例外ではないが、同国の人々はこれ以前に、過去20数年の間に未曾有の危機を2度も経験している。

ひとつは、数十万人が餓死したと言われている1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」だ。そしてもうひとつが、「苦難の行軍」をきっかけに隆盛した市場経済を根絶やしにすることを目論んだ金正日総書記が2009年に行った、貨幣改革(デノミネーション)だ。

間違った経済政策で多くの人が財産を失い、北朝鮮ウォンは完全に信用を失ってしまった。その後、国内での決済でも外貨を使うことが一般化し、国内外に不安要素が発生すれば、米ドルを買う動きが強まる。そして北朝鮮政府は今、同じ過ちを繰り返そうとしている。

ある平壌市民は米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)に対して、ここ最近、ドルを買う動きが強まっていると伝えた。そのきっかけは、公債発行だ。

北朝鮮の中央銀行にあたる朝鮮中央銀行は、17年ぶりに公債を発行する計画を立て、すでに印刷まで終えた状態だ。国営の工場や企業所、トンジュ(金主、新興富裕層)に買わせることでドルを国庫に吸収し、深刻な外貨不足を解消しようとの目論見からだ。

デイリーNKの内部情報筋は先月7日の時点で、この公債発行計画のことを伝えている。また、工場、企業所間の決済を現金ではなく、朝鮮中央銀行が発行する証券で行うことになったと伝えている。RFAの情報筋は、先月20日から各工場、企業所に対して、決済を朝鮮中央銀行で購入した公債で行うよう指示が下されたと伝えた。

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しかし、これに対して工場、企業所、トンジュが強く反発している。コロナによる経済危機を免れるための、その場しのぎの策に過ぎないとの主張からだ。そして、信用度の落ちる公債ではなくドル買いに走っているというのがRFA情報筋の説明だ。

こうした動きには当局も敏感になっており、公債の購入を公然と拒否したトンジュが処刑されたとの話も聞こえる。非常時に国家の統制を乱すと見なした行為について、北朝鮮当局は情け容赦なく重罰を下してきた。

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咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋も、先月20日に工場、企業所に対して現金ではなく国債で決済せよとの指示が下されたと伝えた。しかし、トンジュや幹部は、2003年に発行された「人民生活公債」が当局による押し売りと、住民の購入拒否で失敗に終わったことを思い起こし、国家財政の6割を国債で賄うという今回の計画を自殺行為だとして、ドル買いに没頭しているとも伝えた。

「過去に政府の公債を購入して大損した経験を持つ住民は、もはや公債を信頼しないのは当たり前。購入を強制したとしても、また保衛部(秘密警察)がドル買いを取り締まったとしても、底をついた国庫を公債発行で埋めるのは至難の業だろう」(咸鏡北道の情報筋)

ドル買いと共に起きているのが、輸入品の買い占めだ。そのきっかけとなったのは、先月17日の朝鮮労働党中央委員会政治局会議で採択された党中央委員会及び内閣の共同決定書だ。

平壌市のある幹部はRFAの取材に、決定書は新型コロナウイルスに対する防疫、経済建設、国防力強化、人民生活の安定に関する案を網羅したものだが、その中に「国家経済と国防建設に必要な物資を優先的に輸入し一般物品の輸入は縮小すべき」という内容が含まれていると明かしている。

これを受け、輸入品が品薄になることを恐れた市民が主に輸入品の買い占めに入っているというわけだ。別の平壌市民によると、共同決定書が採択された市内の商店には、客が殺到して輸入電化製品や食品を購入している。先月中旬から市内の市場では小麦粉などの輸入食品はほとんど姿を消し、中国製の大豆油5キロは45元(約674円)だったのが、100元(約1500円)に高騰している。

末端の反発もあり、公債の販売もドルの吸い上げも当局の思惑通りには行かない可能性が高いが、強権でゴリ押しすればドルと物価のいっそうの高騰を招き、国家混乱の増幅という自爆行為につながりかねない。