当直医の死で幕を閉じた北朝鮮「恐怖病棟」での出来事

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北朝鮮の両江道(リャンガンド)三池淵(サムジヨン)は、金日成主席率いる抗日パルチザンが活動を行っていた地域と言われ、北朝鮮当局は、金正日総書記がこの地で生まれたと主張している。

そんな革命の聖地を高原文化都市に改造するという金正恩党委員長の野心的なプロジェクトの主要部がようやく完成し、昨年12月に竣工式が行われた。

(参考記事:金正恩氏「三池淵」再開発の竣工式に参加

そんなお祝いムードの中で、一人の医師が三池淵郡保安署(警察署)の中で、処刑された。現地のデイリーNK情報筋の伝えた罪状は医療事故だ。

事件は昨年の初夏に起きた。

昨年6月10日ごろ、三池淵邑病院に勤務していたA医師は、救急科の当直勤務についていた。

病院にやってきて苦痛を訴えた患者BさんにA医師が処方したのは、なんと化学調味料を水で溶いたものだった。それでも症状が収まらなかったので、A医師が処方したのは、あろうことか農薬を水で溶いたものだったというのだ。日本でこんなことが起きたら、「恐怖病棟」での出来事として世論を騒然とさせることだろう。

北朝鮮では医薬品が不足しており、病院で薬を使うには、患者やその家族が市場で購入したものを持参するか、医師が自作する。小麦粉を煎じて抗生物質を製造するなど、到底考えられないことが行われているが、A医師が処方した化学調味料や農薬は、医薬品がないこの病院で、民間療法として利用されていたものだ。

(参考記事:北朝鮮医師、驚愕の離れ業で「医薬品」を製造

慣れている医師なら、おそらく経験則でどうにか薬として利用できる調合ができたのかもしれないが、A医師の専門は皮膚科で、それがうまくできなかったのだろうか。結局、患者を死なせてしまった。

A医師は、患者に適切な治療を行わず死に至らしめたとの容疑で逮捕され、予審(捜査終了後起訴までの追加捜査、取り調べ)に身柄を移された。その後、半年に渡って極めて厳しい取り調べを受けた。拷問が伴ったであろうことは想像に難くない。

北朝鮮の刑法198条には、医療関係者の医療ミスに対する最高刑は労働教化刑(懲役刑)3年と定められているにもかかわらず、A医師は保安署の内部で処刑された。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

しばらくしてからA医師処刑の話が三池淵の町に広がった。医療事故で処刑という極端に重い処分に、市民の間では「薬がなかったのに、医者の罪はそんなに重いのか」「人間の命はハエの命も同然」などと怒りや嘆きの声が飛び交った。

情報筋は、ことの背景を次のように説明した。

「将軍様(金正日氏)の故郷で起きた良からぬ事件が、首領(最高指導者)の権威の毀損につながったとみなされたのが処刑の根拠だ」

実際、他の地域だったら教化所(刑務所)送りで済まされていただろうとする声が上がっているという。ワイロでのもみ消しも可能だったであろう。

(参考記事:「量刑はワイロで決まる」北朝鮮の常識

処刑後、郡内の病院では思想検討(思想教育と厳しい総括)と同時に、医師の試験が再度行われ、郡内の医師の7割が、医大を出たばかりのインターンの中で特に優秀な者が配属された。

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