北朝鮮がユーチューブで工作員に指示を出すリアルな理由

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ここ数日、「北朝鮮のスリーパーセル」なるものが話題になっている。国際政治学者の三浦瑠麗氏が、2月11日放送の『ワイドナショー』(フジテレビ)で存在を主張したもので、一般市民に偽装して日本社会に潜伏し、有事に際して活動を始めるテロリスト(あるいはテロ組織)のことだという。

これに対しては、すでに「根拠がない」「妄想だ」などの膨大な数の批判の声があり、さらにはその批判に対する批判もある。またそのような議論を超越して、「200人ぐらいいる」とする専門家の解説も出ている。

筆者の個人的な意見を言えば、「そんなものはいない」のひと言に尽きる。もちろん、何かが「存在しないこと」を証明するのは無理だから、客観的な証拠は提示できない。しかし長年の経験からして、北朝鮮にはもはや、そのような人材を運用する力はないと確信している。

優秀な工作員を養成するには、莫大なコストがかかる。高度なテロ活動を行う工作員なら、なおさらだ。また、高度なテロ活動にはそれなりの支援体制が必要であり、それはつまり資金力のことだ。北朝鮮の体制というのは、非合理で財政的に困窮し、そのうえ薄情なのが特徴だ。北朝鮮当局が海外の工作員に資金を供給していた例もあるが、「自分で調達しろ」と命じたり、逆に「上納金を出せ」と求めたりした事例もあった。そんなケチ臭い体制が、「スリーパーセル」などという洒落たものを維持できるはずはないのだ。

とはいえ、北朝鮮が日本でまったく工作活動をしていないかと言えば、そういうわけではない。しかしその主要な内容は、韓国のシンパ組織を支援するための連絡係だ。

(参考記事:韓国でつかまった北朝鮮スパイが「東京多摩地区」で会っていた人物とは!?

あるいは、日本政府に働きかけ、秘密の安保対話のためのラインをつなごうとしていた人物もいた。ただ、外事警察が「工作員である」と認定した本人の直撃インタビューを読むと、これを本当にスパイ事件として摘発する必要があったのか、むしろ日本の国益を損なっているのではないかとの懸念さえ覚える。

(参考記事:直撃肉声レポート…北朝鮮「工作員」関西弁でかく語りき

ちなみに日本の警察は近年、北朝鮮による対韓国工作などの活動を摘発するのにもあまり熱心ではなかった。北朝鮮に対する経済制裁が強まるにつれ、ちょっとした日用品の不正輸出も、公安事件として扱えるようになった。実態の見えにくい工作活動を追うより、不正輸出の方が簡単に見つけられる。そっちで点数稼ぎをしてお茶をにごしている間に、本物のスパイを追うスキルが鈍ってしまったとも言われる。

(参考記事:【対北情報戦の内幕】総連捜査の深層…警察はなぜ公安調査庁に負けたのか

それでも、「スリーパーセル」のようなものが本当に存在するなら、壁紙とか冷凍食品とかの不正輸出の摘発に、貴重な人員を振り向ける余裕はなかっただろう。追うネタが乏しいから、事件化できそうなネタはなんでも挙げなければならないのだと推察することもできる。

ハッキリ言って、現在の日本における対北防諜(カウンター・インテリジェンス)の現場というのは、なんだか気の抜けたような雰囲気になっているのだ。中国などの技術力の向上を受けて、北朝鮮は昔ほどには、戦略物資の調達を日本に依存しなくなっていると思われる。

また拉致問題に加え、北朝鮮国内の人権侵害が国際的イシューとなったことで、日朝国交正常化で巨大な経済支援を受けるという北朝鮮の「野望」も、事実上、ついえてしまった。いまの北朝鮮には、外交官であれ工作員であれ、優秀な人材を日本に振り向けようという動機が、基本的にはないのだ。

そのような現実が、主要メディアで語られることはほとんど、いや、まったくないと言っていいだろう。それこそが、「スリーパーセル」を巡る議論が熱を帯びる素地となっているのだろうが、そのような様を見るにつけ、妙にむなしい気分になってしまうのは、筆者だけだろうか。

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