金正恩「女子大生クラブ」主要メンバー6人を公開処刑

北朝鮮で売春は違法だ。刑法249条「売淫罪」では「売淫行為を行った者は1年以下の労働鍛錬刑に処す。前項の罪状が重い者には5年以下の労働教化刑に処す」とされている。

また、行政罰を定めた行政処罰法220条「売淫行為」は「売淫行為を行ったり、それを助長、仲介、場所を提供した者には罰金または3ヶ月以下の労働教養処分とする」としている。

これは、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」のころ、生きていくために売春を行う女性が増えたことに対処するために、2004年の法改正のときに新設されたものだが、その後も売春の摘発事例は枚挙に暇がない。

「家族風呂」で

今年7月には、首都・平壌の総合レジャー施設で組織的な売春を行っていたグループが摘発された。北朝鮮の首都・平壌の司法機関の幹部が、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)に事件の詳細を語った。市内の東大院(トンデウォン)区域にある紋繍院(ムンスウォン)は、1982年に完成した総合レジャー施設で、1階には大浴場、プール、2階には家族風呂と個人風呂、理容室、美容室がある。

男女のカップルが家族風呂に入るには、結婚証明書が必要となるが、規制が「金のなる木」になるのが北朝鮮の常。一般人が気軽に利用できる宿泊施設が存在しないため、ラブホテル代わりに使われ、不倫の温床となっている。

そんな紋繍院の責任者が、有名映画俳優、平壌音楽舞踊大学、平壌演劇映画大学の教授らに声をかけ、ビジネスを始めることにした。

強要された女子学生

在学中の20代前半の女子学生に「1ヶ月に500ドル(約5万3000円)以上儲かる仕事がある」などと声をかけ、施設内のカラオケ店で売春をさせるというものだ。客は、中央や平壌市党(朝鮮労働党平壌市委員会)の幹部らだった。教育当局は、大学に対して頻繁に「経済課業(ノルマ)」の指示を下し、学生たちは様々な名目で金品を納めることを強いられていた。また、教授への付け届けなど、北朝鮮での学生生活は何かと物入りだ。紋繍院の責任者や教授らは、そんな女子学生の足元を見たのだろう。

(参考記事:北朝鮮の大学生は「妊娠中絶ビジネス」も…若者は思想よりカネ

ところが、組織は一網打尽にされた。声をかけられついて行ったものの、売春だとは知らずに性行為を強要された女子学生が通報したのだ。

「大事にしてたのに」金正恩が激怒

司法当局は現場で関係者を逮捕、取り調べ、その結果は金正恩党委員長に報告された。前述の幹部によると、それを受けて金正恩氏は、自分が大事にしている平壌音楽舞踊大学、平壌演劇映画大学の学生が売春に加担したことに激怒、組織の主要メンバーらの銃殺を指示したもようだ。

(参考記事:女性芸能人らを「失禁」させた金正恩の残酷ショー

そして、市内の龍城(リョンソン)区域の和盛洞(ファソンドン)で7月20日、平壌市党の幹部4人と斡旋者2人が公開銃殺にされた。「5年以下の労働教化刑」という法規定を大幅に上回る判決だが、法よりも最高指導者の意思が重要視されるのが北朝鮮なのだ。(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち

「幹部が遊びながら殺した女性を焼いた」

だが、北朝鮮で若い女性を食い物にしているのは、こうした人々だけではない。韓国に亡命した太永浩(テ・ヨンホ)元駐英北朝鮮公使の近著『3階書記室の暗号 太永浩の証言』(原題)によれば、2013年12月に金正恩氏の叔父・張成沢(チャン・ソンテク)元党行政部長が処刑された際、いっしょに粛清された幹部について、次のような情報が出回ったという。

「労力英雄の称号を受けたオボンサン管理所の所長も拘禁された。張成沢が遊び相手にしていて殺してしまった女性たちを、焼いてしまったという嫌疑のためだった」

「主人公」は金正日

オボンサン管理所は、火葬場や共同墓地を管理する組織だ。張成沢氏に死刑を言い渡した特別軍事法廷の判決は、同氏が数多くの女性と不倫関係にあり、麻薬を服用していたと指摘していた。「殺してしまった女性たち」というのは、薬物の過剰摂取か何かで死んでしまった女性たちがいたということだろうか。

(参考記事:「エリート女学校長は少女達を性の玩具として差し出した」北朝鮮幹部が証言

もっとも、公正な裁判で出されたとは言えない判決を信用するわけにはいかず、太永浩氏の証言も具体的とは言えない。だが、これと似たような話で、かなり具体的なストーリーが伝わっている例もある。

その醜聞の主人公は、ほかならぬ金正日総書記だ。ある有名女優との不倫関係が父・金日成主席にばれるのを恐れ、罪を着せて銃殺してしまったという内容だ。

(参考記事:機関銃でズタズタに…金正日氏に「口封じ」で殺された美人女優の悲劇

残忍な粛清では祖父や父にも劣らない金正恩氏だが、今のところはまだ、ここまで醜悪なエピソードは伝えられていない。しかし、絶対的な権力は必然的に腐敗する。彼が父と同様の罪に手を染めるのも、時間の問題ではないだろうか。