300人が青ざめた、金正恩「お嬢さま処刑」の見せしめショー

北朝鮮では2020年12月、最高人民会議常任委員会第14期第12回総会において「反動思想文化排撃法」が採択された。韓流コンテンツの流入により、国民の思考やライフスタイルが変化するのを極刑で押さえつけるものだ。

当初、同法の詳しい内容は不明だったが、違反に対する最高刑が死刑であることを、韓国デイリーNKはいち早くつかんでいた。2021年1月、北朝鮮当局が作成した同法の説明資料を入手し、法違反時の量刑などに関する具体的な内容を報道したのだ。

政治局長の娘

実際、韓流コンテンツを密売した罪などで複数の処刑が行われたとする情報も、北朝鮮国内から伝えられている。20代女性のAさんは、平安南道保衛局(秘密警察)の政治局長の娘で、韓徳銖(ハン・ドクス)平壌工業大学を卒業後、食料品工場で働いていたが、最近になって平城(ピョンソン)に住む家族のもとに戻り、平安南道保衛局傘下の生産基地に所属していた。(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

といっても、Aさんの場合はカネとコネの力で出勤扱いにしてもらい、実際は働かずに遊んで暮らしていたとのことだ。

彼女のボーイフレンドは、理科大学自動化学部を出たコンピュータ技術者のBさんだった。2人はまず、韓国料理に関する様々な韓流コンテンツを見るようになった。

処刑場に引き出され

コロナ鎖国下にある北朝鮮では、密輸が困難になったため、新作の韓流ドラマ、映画などの入手も難しくなっているが、高位幹部らがコネを使って取り寄せているとの情報がある。Aさんもまさにその1人だったのかもしれない。当初は韓流料理番組を見て、新しいメニューを開発して飲食業を開こうと思っていた二人だったが、徐々に韓流にはまり、写真館を営み、中国製のパソコンを取り寄せ、韓流ソフトの複製、販売を行うようになっていった。

しかし、これは無期懲役または死刑に処される可能性のある重罪だ。バックに秘密警察幹部の父親がいるからこそ、可能だったと言えよう。

最前列にいたのは

だが、父親の権力を持ってしても、隠し通すことは不可能だったようだ。情報筋は詳しい経緯には触れていないものの、二人は逮捕されてしまった。そして1月末に、平城市の文化洞(ムナドン)で公開裁判にかけられ、当局により引き出された人民班(町内会)、安全部(警察)、検察所などの人員300人が見る前で銃殺されてしまった。(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面最前列で、その様子を息を飲んで見守っていたのは、二人の商売の協力者でもある保衛員(秘密警察)たちで、銃殺後に、彼らも違法映像物流通加担、黙認の容疑で逮捕された。

(参考記事:【写真】玄永哲氏の銃殺で使用の「高射銃」、人体が跡形もなく吹き飛び…

一方、道保衛局政治部長の座にあった父親は、処刑を免れたものの、管理所(政治犯収容所)送りとなった。今まで特権に守られていた人物が、極度に劣悪な環境の管理所に送り込まれるとなると、緩慢な処刑と言っても過言ではないだろう。

以前なら、秘密警察幹部の父親の権力で、罪をもみ消すことができたかもしれない。しかし北朝鮮では、社会統制のための新法が後には「見せしめ」のための処刑が増える傾向がある。2人が死刑になったのも、反動思想文化排撃法が影響したと見られた。

しかしだからと言って、法の条文に死刑が規定されているとは限らない。司法手続きによらない即興的な処刑はもちろん重大な問題だが、たかが(と敢えて言う)韓流ドラマを売っただけで死刑にすると決めた法が、今後も体制の続く限り存続する状況も身の毛がよだつ。

それにデイリーNKが入手した説明資料の類は、ニセモノであるリスクが常にあるのだ。

だが、デイリーNKと、韓国のNGOである「成功的な統一を作っていく人々」(PSCORE)は21日、スイス・ジュネーブで開かれた北朝鮮における人権に関する国連調査委員会の設立10周年行事で、この法律の全文を公開した。

これも北朝鮮国内の協力者を通じて入手したもので、北朝鮮政府が正式に外部へ向けて公開したものではない。

それでも、公開に先立って全文を検証する過程で、同法に死刑の規定がある事実が、何重にもかけて確認されたと筆者は考える。

北朝鮮で、外部情報の流入や流布と関わる処刑は昔から行われていた。しかし同法の制定によって、凶悪犯罪を犯してもいないごく普通の北朝鮮国民が、常在する死刑リスクの下で日常生活を送ることになったのである。