「見てはいけない」ボロボロにされた女子大生に北朝鮮国民も衝撃

国連人権理事会では4日、欧州連合(EU)が提出した対北朝鮮人権決議案を17年連続で採択した。決議は北朝鮮が強制労働などの人権侵害を通じて違法な核・ミサイル開発を進めていると問題視しているほか、北朝鮮当局が血道を上げる「韓流摘発」の非道性にも言及している。

残忍な取り調べ

北朝鮮で2020年12月に制定された反動思想文化排撃法――別名「韓流取締法」の最高刑は死刑であり、諸外国では考えられないことだ。また死刑にならずとも、違反者はきわめて非人道的な扱いを受ける。

たとえば、違反者は身体がボロボロになるほど凄惨な取り調べを受けることが少なくない。拷問を受けているであろうことは明らかだ。公開裁判に引き出されてくると、見守る人々は息を飲むという。2022年5月には、韓国映画を見たことがバレて逮捕された女子大生2人が、そうした目に遭わされた。特に彼女たちの場合、見た作品がマズかったと言えるかもしれない。

見守る人々は…

2017年に公開された韓国映画『コンフィデンシャル/共助』。北朝鮮の捜査員が韓国に派遣され、現地の刑事とともに犯罪グループを追うスパイアクションだ。北朝鮮の捜査員は人気スターのヒョンビンが演じており、決して北朝鮮の人々を卑下するだけの作品ではないのだが、コミカルな役作りがされていただけで、当局の不快感を誘ったようだ。公開裁判で、うなだれて震える2人の姿を見た人々は「見てはいけないものを、なぜ見たのか」と憐れむばかりだったという。

(参考記事:北朝鮮の15歳少女「見せしめ強制体験」の生々しい場面

また、こうした非人道的な扱いをされるのは、10代の高校生も同様だ。女子高校生らがひどい姿で引き出されたという証言はいくつもあるし、男子高校生に至っては複数人が処刑されたとの報道もある。

北朝鮮の女子高生が「骨と皮だけ」にされた禁断の行為

デイリーNK内部情報筋によると、南浦(ナムポ)市の臥牛島(ワウド)の閘門(カンムン)第1高等中学校の少年会館で2021年、2年生の女子生徒をはじめ男女6人に対する公開裁判が行われた。容疑は、「韓国映画を見た」というものだった。

手錠をはめられた状態で壇上に引き立てられてきた6人は、両親、同級生が見守る中で裁判にかけられた。情報筋によれば、「顔は骨と皮だけにやつれ、フラフラで立っているのがやっとだった」。非常に厳しい取り調べ、つまり拷問を受けた様子がありありと見て取れたということだ。

敏感な部分が

通常、未成年の場合は罪を犯しても、少年教養所(少年院)で1年間の労働教養を受けることになっているが、今回の6人に対しては、5年の労働教化刑が下された。つまり、成人同様に、教化所(刑務所)送りになるということだ。2020年12月4日の最高人民会議常任委員会第14期第12回総会で採択された「反動的思想文化排撃法」は27条で、「傀儡(韓国)の映画や録画物、編集物、図書、歌、絵、写真などを見たり聞いたり、保管した者、または傀儡の歌、絵、写真、図案などを流入、流布した者は、5年以上10年以下の労働教化刑に処す」と定めている。同法に関しては、未成年であっても成人と同じ量刑が課され得るということだ。

青少年は流行に敏感であるだけに、その部分が同法に引っかかって摘発される事例も多い。北朝鮮当局もそのことに危機感を抱き、一部で適用を緩和しているとされるが、その対象は有力者の子どもたちに限られている可能性もある。

ご子息ご令嬢「ご乱行」に金正恩もヘナヘナ

だが、北朝鮮も日韓などと同様、少子化が進行している。そんな中でこうした無茶苦茶な取締りを行うのは、自ら国を亡ぼす行為に等しいと言えるだろう。

そして最近、北朝鮮国内から聞こえてきたニュースの中で、最も衝撃的だったもののひとつが「高校生3人処刑」だ。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は昨年12月3日、北朝鮮の両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)市で韓流ドラマや映画などを視聴し、拡散させたとして摘発された高校生ら3人が、10月に公開処刑されていたと報じた。

処刑された3人のうち、2人は韓流コンテンツやアダルトビデオを流布したとして摘発された。もうひとりは継母を殺害したとして逮捕されていたという。

「先輩」に呼び出され

一方、北朝鮮国内における韓流視聴を巡っては、こんな情報もある。北朝鮮北東部の羅先(ラソン)市で10月、若者のグループがK-POPをかけて、歌い踊り大騒ぎを繰り返していたところ、反社会主義・非社会主義連合指揮部(82連合指揮部)に踏み込まれ逮捕された。

グループは羅先でも有名なトンジュ(新興富裕層)らの息子と娘たちで、コロナ前から10日に1回集まって、後輩たちを呼び集めて、飲めや歌えやの大騒ぎを続けてきたのだ。

冒頭で述べた高校生の例を踏まえれば、このグループにも厳罰が下されるのが普通だろう。だが、そうなってはいないもようだ。市の治安、行政、司法など様々な機関と太いコネを持っている親たちが、カネの力でもみ消した可能性がある。

10代の少女ら10人が

同種の情報はほかにもある。北朝鮮の朝鮮労働党法務部は今年4月4日、「反動思想文化排撃法違反少年に対する意見対策案」という提議書を中央に提出。金正恩総書記による1号批准を受けた上で、8日から全国の司法機関、安全機関に対し、韓流コンテンツなどを隠れて視聴していた少年らに対する処罰を緩和するよう指示を下した。

平壌のデイリーNK内部情報筋によれば、この指示に従い、集団で南朝鮮(韓国)のミュージックビデオを回し見して船橋(ソンギョ)、楽浪(ランラン)区域安全部(警察署)に逮捕された13歳の少女をはじめとする中学生10人が、予審科による勾留を解かれて釈放されたという。

金正恩も「降参」

これだけを聞けば、韓流の視聴などで摘発されたあらゆる若者に対し、処罰が緩和されたものと思えるだろう。だが、そうではなかった。デイリーNKジャパン編集部が韓国情報機関の元高位関係者から得た情報によれば、平壌の船橋・楽浪区域安全部に逮捕された少年少女はいずれも、金正恩の「最側近クラス」である朝鮮労働党と朝鮮人民軍幹部の孫たちだったという。

さすがの金正恩氏も複数の側近たちからの助命嘆願にへなへなとなり、釈放を命じずにいられなかったのだろう。

いずれにせよ、当局の非人道的な取り締まりにもかかわらず、今年も韓流は北朝鮮国内で猛威を振るった。来年もこの傾向は変わらないだろう。ただ、当局の手法がいっそう残忍になりそうなことが気がかりだ。

ちなみに、北朝鮮における「少年少女の暴走」は、今に始まったことではない。

高校生たちの「性びん乱」

地方都市では、高校生による薬物中毒と「性びん乱」の大スキャンダルが巻き起こったこともある。咸鏡北道(ハムギョンブクト)の内部情報筋によれば2017年の2月5日、「会寧(フェリョン)市のキム・ギソン第1中学校で、生徒の父母を集めた『大総会』が開かれた。

これを主導したのは、薬物と不法映像物、売買春を取り締まる中央の特務機関である『620常務』。内容は、オルム(覚せい剤)を服用して性行為を行っている生徒らの非行問題で、とくに悪質と見られた生徒らの実名が公表された」という。

16歳の生徒が

このような問題は、以前にも起きている。2011年1月、清津(チョンジン)市の南江女子中学校で当局が取り締まりを行ったところ、16歳と17歳の生徒の相当数が覚せい剤の吸引道具を持っていたことがわかったのだ。

(参考記事:一家全員、女子中学校までが…北朝鮮の薬物汚染「町内会の前にキメる主婦」

今回のケースも同様に深刻で、情報筋は「総会では、生徒の6人に1人が覚せい剤を服用している点が強調された。当局は子供でも容赦しない方針で、刑事処分が下されるらしい」と話す。

親たちの「行為」目撃

ちなみに、学校名に冠せられた「キム・ギソン」とは、金正日総書記の母・金正淑(キム・ジョンスク)氏の弟で、北朝鮮当局が「少年革命家」として宣伝してきた人物だ。つまりこここは、地元の幹部や金持ちの子供を集めた学校であるということだ。それだけに、北朝鮮当局としても出来ることなら問題の隠ぺいを図りたかったのだろうが、それが不可能なほどに、少年少女の暴走ぶりが凄まじかったのだろう。

しかし、いくら厳しく取り締まったところで、現状が改善するかは疑問だ。

「これは、子供たちだけの問題ではない。子供たちは、家でオルムを火であぶって吸引する親たちの姿を見ながら、自分も少しずつ『味見』をするうちに、乱用するようになってしまったのだ。オルム欲しさに親のカネを盗むだけでなく、様々な商売を始めて購入資金を稼いでいる子供までいる」(情報筋)

大総会を主導した当局者は、「国の未来であり希望の星である学生たちが薬物に溺れるとは、国家の存亡にも関わる重大事。親たちはいっそうの関心を持って教育に取り組まねばならない」と諭したというが、その言葉は、いったいどれだけの大人たちに届いたのだろうか。(【画像①】北朝鮮国内で覚せい剤を密かに吸引する様子)(【画像②】紙幣でパイプをつくって覚醒剤を吸引する様子

(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち