北朝鮮国内に処刑場所、集団埋葬地など393ヶ所…韓国の人権団体が解析
北朝鮮の処刑、「火あぶり」も
韓国・ソウルに本部を置く「転換期正義ワーキンググループ(Transitional Justice Working Group)」は、北朝鮮の政権が行っている人権侵害を記録することで、そのような行為をやめるよう警告すると同時に、将来的な加害者の法的処罰の可能性を高める目的で、今回のプロジェクトに着手した。
このグループは、過去2年間に375人の脱北者との対面調査を行い、そこで得たデータを情報技術(IT)を駆使した手法で解析し、公開銃殺などが行われた場所を推定。その場所を地図上の座標に落とし込む作業を続けてきた。
北朝鮮の処刑場についての報告書
そして今月19日、中間総括として発表された報告書によると、人権侵害の現場として最も多かったのは銃殺場所で、全国に290カ所が存在する。そのうち7カ所では、一度に10人以上が銃殺されたという。また絞首刑(40カ所)、自殺の強要(2カ所)、火あぶりの刑(1カ所)を合わせた処刑場所は、全国で少なくとも333カ所に及ぶ。
また、埋葬推定地(35カ所)、目撃証言のある埋葬地(7カ所)、共同墓地への埋葬(2カ所)、戦争捕虜墓地への埋葬(1カ所)、死体保管場所(2カ所)、遺体が露出していた場所(2カ所)、火葬場所(3カ所)など、公開処刑されたり獄死したりした人の遺体処理に関連する場所は少なくとも52カ所あることがわかった。
それ以外に、公開裁判のみが行われた場所は8カ所で、すべてを合わせると393カ所に及ぶ。
集団埋葬の推定地は、管理所(強制収容所)や教化所(刑務所)の近くにあり、そこを中心とする半径1~4キロの範囲内に、複数の殺害場所や埋葬場所が集中している傾向が見られる。例えば、公開処刑された複数の人の遺体が棄てられたボタ山から数百メートルのところには、別の時期に処刑された複数の人の遺体が棄てられた廃坑があるといった具合だ。
政治犯収容所をはじめとする施設以外の、一般地域での公開処刑は河原や堤防など川の周辺が実行場所として多く選ばれている。その一方、市場や競技場などで処刑が行われた例もあった。
北朝鮮の処刑、証拠隠滅の可能性
処刑された人の「罪状」は、工場設備・機械部品・電線・家畜・穀物の窃盗、殺人、人身売買、韓流ドラマのソフト販売、組織的な性売買、性的暴力、麻薬密売、暴力行為など多岐にわたっている。
行政機関や朝鮮労働党の官僚が処刑される場合には、横領、スパイ行為、国家財産詐取、贅沢品の使用などが罪状として問われているという。
処刑方法としては、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」の前には市場での絞首刑が多かったが、2004年から絞首刑はほとんど行われなくなった。銃殺に移行したのは2005年からのことで、2005年から2010年にかけては「銃弾を使うことすらもったいない」との理由で、撲殺刑が多かった。また、時期を問わず、取り調べの過程で拷問死した人も少なからずいるものと思われる。
北朝鮮の処刑場が多い地域
地域別に見ると、銃殺場所290カ所のうち、北東部の咸鏡北道(ハムギョンブクト)が222カ所と圧倒的に多い。
これは、対面調査に応じた脱北者の58.9%(221人)がこの地域の出身であることによるものだ。
つまり、咸鏡北道での人権侵害事例が他地域に比べて飛び抜けて多いのではなく、他の地域に関する証言が少ないことによる結果であるということだ。とくに中朝国境から遠く、脱北の難易度が高い黄海道(ファンヘド)、江原道(カンウォンド)の人権侵害については実態が把握しにくく、これまでと同じ方法では実態解明に限界があることを示したものと言える。
なお同グループは、人権侵害が行われた具体的な場所は公表しておらず、今後もその予定はないとしている。現状では、客観的な現地調査が不可能であり、そのような状況で具体的場所を公表すると、北朝鮮当局が証拠隠滅を行う可能性が高いからだ。
(関連記事:衛星写真で追い詰める…北朝鮮「集団虐殺」の動かぬ証拠)治安維持のために処刑を連発した金正日氏
北朝鮮は、1990年代の未曾有の食糧難「苦難の行軍」で、それまで国を支えてきた配給システムが崩壊し、国が乱れ、治安が極度に悪化した。その状況を打破するために、金正日総書記は、処刑を連発し、人びとに恐怖心を植え付けることで、混乱を収めようとした。