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〈『波の塔』から三十数年後、また別の本が、自殺者の持ち物から見つかった。『完全自殺マニュアル』(太田出版、1993年)。地元では、樹海での自殺者の増加と関連づける報道もされた。

「いざとなったら死ねばいいという選択肢を示せば、無駄に頑張らずに気楽に生きられるはず」。この本にそんなメッセージを込めたという著者の鶴見済(わたる)さん(51)は当時、意図とはまったく違う報道に戸惑ったという。

「本を読んで初めて自殺を思い立ったのではなく、逆に決心した人が本を手に取るという順番が自然。自殺者の増加は、報道が特に大きな要因ではないか」

報道が自殺者を増幅する現象は「ウェルテル効果」として知られている。2000年には、世界保健機関(WHO)が、自殺の手段を詳細に報じることや、自殺をセンセーショナルに取り上げることを控えるよう提言した。

この提言を参考にした自殺防止対策の指針により、山梨県は4年前から、「樹海での自殺を助長する」と判断した映画やテレビのロケを認めていない。樹海の大部分は県有地であるため、企画書を見て県が可否を決められるのだ。県警も毎年のようにメディアで取り上げられた自殺者の一斉捜索を中止し、11年度以降は樹海の死者数の発表もやめた。〉