「夜が強くなる。やせる…」若者を狂わせる危ない誘い
たとえば賭博、売買春、違法薬物の密売や乱用、韓国など外国のドラマ・映画・音楽の視聴、ヤミ金融、宗教を含む迷信などなどだ。もちろん、その他の刑事事犯も含まれる。
(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち )この演説を受けて、北朝鮮当局は昨年初めから、非社会主義の取り締まるための一大キャンペーンを展開した。金正恩氏が今年1月1日に発表した施政方針演説「新年の辞」には、これに類する内容は見られないものの、北朝鮮当局は引き続き、非社会主義の取り締まりを続けるだろう。
しかし実際のところ、金正恩氏本人を含め、韓流など外国文化と接していない北朝鮮の幹部はほとんどいない。それにもかかわらず、庶民を対象に取り締まるなどもってのほかだ。昨年のキャンペーンではほかにも、日本ではなら罪とも言えない罪で断罪された人が少なくない。
ただその一方で、金正恩氏には是非とも厳しく取り締まってもらいたいものがある。覚せい剤をはじめとする違法薬物の蔓延だ。
覚せい剤は、確実に北朝鮮社会を蝕んでいる。2007年当時、中国の丹東で貿易業を営んでいた中国朝鮮族のキム・ジョンエ(仮名)さんはデイリーNKに対し、覚せい剤に溺れる北朝鮮の貿易業者の様子を次のように語った。
「北朝鮮の貿易業者のほとんどが覚せい剤中毒者だった。そのせいで、時間も守らなくなり、約束も平気ですっぽかす。新義州(シニジュ)の有能な若い業者は、皆覚せい剤に手を出し、まともな人はいなくなった」
北朝鮮の地方都市は2000年代の前半、カネを持っていても、使う場所がない状況だった。そこで、手軽に楽しめるレジャーとして覚せい剤が脚光を浴びてしまったのだ。覚せい剤は北朝鮮国内の市場に大量に流通しており、売人はいたるところにいる。
彼らは、トンジュ(新興富裕層)に狙いを定め、「夜(性生活)が強くなる」「痩せる」「頭がスッキリする」などと甘い言葉で誘い、覚せい剤を売りつけたのだ。
(参考記事:「男女関係に良いから」市民の8割が覚せい剤を使う北朝鮮の末期症状)覚せい剤の猛威は、国境を越えて広がっている。1990年代、北朝鮮が国家ぐるみで日本への密輸に取り組んでいたのは周知のとおりだが、中国もまた被害に遭った。中国の中でも北朝鮮と国境を接している東北地方では、覚せい剤の中毒者が激増。吉林省延辺朝鮮族自治州の延吉市では、薬物中毒者の数が、1995年の44人から2010年には2090人にまで増えた。
(参考記事:一家全員、女子中学校までが…北朝鮮の薬物汚染「町内会の前にキメる主婦」)その後、中国政府の要請もあって、北朝鮮からの覚せい剤密輸は小康状態が続いたものの、昨年になり、再び活発化しているとの情報が各方面から出ている。今回は国家ぐるみではないが、経済制裁の影響に苦しむ貿易業者や密輸業者が、手っ取り早い儲けのために参入しているもようだ。
そのような「モノ」の流れが、いつまた日本に伸びてくるかわからない。いや、もしかしたらすでに日本まで来ているかもしれない。
国際社会は北朝鮮に対し、覚せい剤の国内での取り締まりをいっそう強化するよう、強く求めていくべきだ。