追い詰められた北朝鮮で「仁義なき食糧争奪戦」が勃発
北朝鮮国内の食糧事情はかつてと比べ改善しているが、庶民が食べていくのは相変わらずたいへんだ。市場で食べ物を買う現金収入を得るために、売春などの手段に走る人々も少なくない。
(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち)軍隊が強奪
そんな状況の中、国と協同農場、農民との間で穀物を巡る熾烈な争奪戦が繰り広げられられている。毎年のことではあるが、今年はいっそう激しさを増していると、平安南道(ピョンアンナムド)の内部情報筋が伝えてきた。
道内の北倉(プクチャン)、粛川(スクチョン)、陽徳(ヤンドク)では、検察所の検事が農場と農民の家にやってきて、「隠し持っている穀物を差し出せ、さもなくば裁判にかけて教化所(刑務所)送りにしてやる」などと脅迫している。農場の幹部に対しては備蓄食糧を差し出せと脅かし、家宅捜索を行うこともあるという。
農場の分組長や作業班長を取り調べ名目で連行、10日近く勾留し、計画分の穀物を差し出すと約束を取り付けてようやく釈放するという事例も起きている。農場の担当者が、市場でコメを買って国に差し出すという笑えないコントのようなことも起きている。
このような事態が繰り返されるのは、自然災害のせいだけではなく、北朝鮮の農業が構造的な問題を抱えているからだ。
国は前年の収穫量に基づき、穀物生産計画量(ノルマ)を策定、各農場に割り当てる。ノルマは、天変地異などいかなる理由があれど、必ず取り立てることになっている。それも、コメ1キロ120北朝鮮ウォン(約1.5円)という市場価格の40分の1以下でだ。
本来は収穫量の3割が国、7割が農場の分前になるはずだが、それが逆転し、7割を供出させられることもある。
金正恩党委員長は、軍に対する食料供給を重要視する姿勢を示している。その供給源となるのが協同農場だが、そこからの供給が円滑に行われなければ、兵士たちは飢えに苦しむことになる。そのため、決められた量を是が非でも供出させようとするのだ。
(参考記事:兵士の月給はたった9円…金正恩氏の「腹ペコ軍隊」は餓死寸前)しかし、これは農場の経営に深刻な影響を及ぼす。農場は、1年の農業に必要な光熱費、農薬、肥料などを借りて、秋の収穫で返済する。返済分まで国に奪われることになると、経営が行き詰まり、翌年の農作業が立ち行かなくなってしまうのだ。そのため、国に納める穀物の量を最大限減らすと同時に、計画を著しく下回り処罰の対象とならないように、収穫量を虚偽報告するのである。
北朝鮮の食糧事情は以前と比べて好転したとは言え、依然不安定だ。無理な供出が、餓死者の大量発生に繋がることもある。
情報筋は「いくら検察が恐ろしいと言っても、数ヶ月の食糧にも事欠く農民の食い扶持をどこで作り出すというのか」「凶作はすべて農民の責任にさせられる」などと述べ、抵抗する姿勢を見せている。農民の中には、都会に住む親戚の家に避難し、事態が収まるのをじっと待つという者もいる。
当局が買い取ったコメのうち、7〜8割は軍糧米(軍向けの食糧)、2〜3割は戦時備蓄米、一般配給用などに割り振られる。軍糧米は人民武力省後方総局、人民委員会(地方自治体)軍需動員課、農村経営委員会などが買い取るが、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の部隊がトラックで乗り付け、コメを半ば強奪していくこともある。
(参考記事:金正恩氏「堪忍袋の緒が切れた」ドロボー兵隊集団に厳罰)