女性に「性上納」までさせながら…「金正恩の党」のオワコン度
これは、平安北道新義州(シニジュ)の内部情報筋が、知人であるAさん本人から打ち明けられた話だ。
昨年12月中旬、朝鮮労働党の党員証授与式が行われた。党の規約によると、入党するには入党請願書と党員2人の入党保証書を提出。審査で認められれば見習いにあたる候補党員となり、問題がなければ1年後に正式な党員として迎えられる。
だが、こうした機会を得るには職場の党委員会の実力者の推薦を得なければならず、そのためには様々な形のワイロが必要になる。軍の女性兵士などは、入党と引き換えに「マダラス」と呼ばれる性上納を強いられることすらある。
(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為)「Aさんは労働党に入るために企業所で誠実に働き、上役に労力(ワイロ)を欠かさないなど頑張ってきたというのに……」(情報筋)
「ワイロ」と「誠実さ」が並列するのがいかにも今の北朝鮮を表していると言えるが、その甲斐あってか、Aさんは企業所の推薦で入党できることになった。
ところが、式典で党員証を受け取った喜びもつかの間、責任秘書(党の地方組織のトップ)はいきなりこんなことを言い出した。
「党員証を受け取った引き換えに、コメ1トンを差し出せ」
突拍子もない要求に、会場内はざわついたという。
コメ1トンを今月23日の価格で計算すると、410万北朝鮮ウォン(約5万3300円)になる。平均的な4人家族の1ヶ月の生活費が50万北朝鮮ウォン(約6500円)であることを考えると、とてつもない額だ。
経済的に余裕のないAさんは、知人や友人を訪ね歩き、コメを借りてようやく1トンを集めることができた。しかし、これからは重い返済が彼を待ち構えている。
他の入党者も苦しいのは同じだ。「党員になったとしても、昔のように光栄なことでもなく、党員証がなくてもカネさえあればやっていける。それなのになぜ党員になったのか」と自問自答する人もいるそうだ。
(関連記事:朝鮮労働党員はエリートも今は昔…「結婚するなら党員じゃなくて金持ち」)かつての北朝鮮で、朝鮮労働党の党員になることは出世への近道だった。しかし、市場経済化が進む今の北朝鮮では、かつてのような威光はない。むしろ、制限が多くて不便なのだ。
例えば、党員になれば非党員のように自由に商売ができない。非社会主義(当局が考える社会主義にそぐわない行為、風紀の乱れ)で摘発されれば党から追い出され、社会生活に支障をきたすばかりか当局の監視対象になりかねない。
また、収入の2%を党費として納め、政治学習会、講演会に出席し、毎日の生活総和(総括)を行なうという「党生活」と呼ばれる義務も生じる。一銭の得にもならず、時間をドブに捨てるようなものだ。上役にワイロを渡して党生活を免除してもらう党員も少なくない。
それだけではない。就職にも不利に働いてしまう。国の機関の傘下にある貿易会社や、トンジュ(金主、新興富裕層)が経営する企業が労働党員を雇うことは処罰の対象だ。それをもみ消すには多額のワイロが必要となる。そこまでして雇っても党生活で会社を留守にすることが多い。「面倒」との理由で解雇された事例すらある。
(参考記事:北朝鮮「性上納」で出世してもお先真っ暗…労働党員もクビ)「出身成分(身分)のよくない人がワイロを積んで入党するケースが頻発したことで、党員の名誉と威光は以前ほどではない」(情報筋)という認識も広がりつつある。
「教化所(刑務所)帰りの人でも、コメを10トンばかり上納すれば党員になれるらしい」「外に向かっては社会主義を叫んでいるけど、中では資本主義に染まりきっている」(情報筋が聞いた街の声)
そんなオワコンの労働党に入ろうとする人は減りつつあると言われている。若者からは「党員になって下手に出世でもしたら粛清されかねない」と避けられる始末だ。
(参考記事:医師、IT技術者に憧れる北朝鮮の若者「粛清されないから」)それでも「出世のためには党員証が必要」と考える人もいる。まさにAさんがそれだ。
「どうせならば党員証があったほうがいいんじゃないかと思い努力してきたが、結局手元に残ったのは借金だけ」(Aさん)
情報筋の話を聞く限り、Aさんは世情に疎い人のようだ。生き馬の目を抜くような今の北朝鮮で、Aさんのような人は出世も期待できなければ、党員にならずに商売をしたとしても成功は難しいだろう。