大学生も住民も「死にそう」…北朝鮮の酷寒「超ブラック事業」

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戦中の日本では、様々な日用品を「慰問袋」と呼ばれる袋に詰めて、戦地に出征した兵士あてに送っていた。新聞社がキャンペーンを行い、食品会社が販促活動の一環として利用するものだったが、戦争が激化するにつれ強制性が高まっていった。慰問袋とは別に、コメ、金属、家で飼っていたペットの供出も行われた。

当時、日本の植民地支配下にあった朝鮮でも同様のことが行われていたのだが、その名残だろうか。北朝鮮当局は、国家的建設事業に従事する労働者に送る支援物資と称して、国民から半強制的に様々な物品を徴収している。

両江道(リャンガンド)の内部情報筋によると、最近の政治講演会は「三池淵(サムジヨン)の開発工事を物心両面で支援しよう」とする内容が増えたという。

金正恩氏は今、北朝鮮で「革命の聖地」として知られる三池淵群郡の観光開発プロジェクトを最重視していると見られる。しかし、こうした事業の建設現場の安全対策は劣悪で、深刻な事故が後を絶たない。

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特に、冬の三池淵は氷点下20度を下回り、極寒の建設現場での工事は危険が伴う。健康だった若者が病気になって、故郷にたどり着く前に命を落とすという悲劇も起きている。

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それでいて、国家による支援体制も十分でないから、その負担が国民に向かうというわけだ。

各地の朝鮮労働党の幹部は政治講演会の内容に基づき、「三池淵の建設に動員された大学生の食料を支援せよ」と住民から食べ物を供出させている。内訳は、1世帯あたり大豆200グラム、トウモロコシ500グラム、コチュジャン1キロ、キムチ1キロ、手袋5対だ。

すべて市場で買い集めても数百円程度だが、その日暮らしをしている庶民が「死にそうだ」とぼやくのは無理もない。

動員された大学生の苦労もハンパではない。

北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は先月14日、金日成総合大学、金策(キムチェク)工業大学、元山(ウォンサン)農業総合大学など全国の大学生が三池淵の建設現場に向かったと報じた。

記事は「数多くの青年大学生たちが自らの精神的故郷を守り輝かしめるという一心で胸を熱くたぎらせ、熱烈に嘆願した」と報じているが、実際は「冬休みに入った学生を集めて、三池淵建設の重要性を説いた上で(建設工事の支援に)参加するかどうかを確認した」(情報筋)という。つまり、「イヤだ」とは言えない状況に追い込んで半強制的に約束を取り付けたということだ。

多くの大学生が、学費や学用品、生活費を稼ぐためにアルバイトをしているが、長期間の動員でそれも難しいだろう。つまり、次の学期は食うや食わずのキャンパスライフを過ごすはめになるということだ。

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