「この国はもう終わり」北朝鮮を脱出した女性が見たモラル崩壊の極み

もっとも読まれている記事:北朝鮮の15歳少女「見せしめ強制体験」の生々しい場面
今月5日に旧正月を迎えた北朝鮮で、オルム(氷=覚せい剤を表す符丁)と呼ばれる覚せい剤の値段が高騰しているという。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によると、覚せい剤を買い求める人が多すぎて売り切れ状態になったためだという。

(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち

違法薬物、とりわけ覚せい剤の蔓延は北朝鮮社会が抱える深刻な問題の一つだ。北朝鮮で麻薬や覚せい剤は国家機関の主導で製造され中国や日本に密輸された。ところが、各国当局の厳しい取り締まりによって徐々に減少。それが北朝鮮国内で薬物が蔓延するきっかけとなる。薬物の「在庫」もあれば、製造技術も原材料もある。しかし売り先はない。自ずと国内で流通しはじめたのだ。

(参考記事:一家全員、女子中学校までが…北朝鮮の薬物汚染「町内会の前にキメる主婦」

覚せい剤が蔓延する背景として、違法薬物が深刻な害を及ぼすという認識が国民の間で徹底されていないことがある。旧正月前後に覚せい剤の需要が高まったのも、「正月のプレゼント」として覚せい剤が贈られるからだというのだ。

覚せい剤が贈り物として扱われるようになったのは、今にはじまったことではない。2014年に脱北した薬物密売人は、「当時、会寧(フェリョン)市に住む成人の70~80%ぐらいはオルムをやっていたと思う。私の客は、ごく普通の人々だった。警察官、保衛員、朝鮮労働党員、教師、医師たち。オルムは誕生日のパーティーや高校の卒業祝いのための、非常に良い贈り物だった」と述べている。

さらに懸念すべきは、覚せい剤の購入層として中高生の割合が高くなっていることである。RFAの情報筋は「以前は、周囲の顔色を窺いながらオルム(覚せい剤)を入手していたが、最近では気にせずに購入している」と述べる。

日本に在住する脱北者のAさん(40代の女性)は、薬物の蔓延が北朝鮮を離れる決定的なきっかけだったという。

「隣家の10代の学生が覚せい剤中毒になって大変な騒ぎとなった。それをきっかけに薬物について独自で調べたところ、あまりにも薬物が蔓延する実情を見て、この国(北朝鮮)はもう終わりだと思い、脱北を決意した」

薬物の蔓延については、金正恩党委員長も深刻な問題としてとらえているようだ。RFAの消息筋によると、「覚せい剤の製造、販売で摘発されたら死刑も覚悟しなければならない」という。それでも大金を稼ぐことができるのが、覚せい剤ビジネスなのだ。また、北朝鮮の厳しい現実があるからこそ、覚せい剤に手を染める人々がいる。

違法薬物に対する北朝鮮社会全体の意識を変えない限り、薬物が蔓延する状況は改善しそうにない。このままだと、薬物蔓延が金正恩体制を脅かす可能性すらある。

(参考記事:「男女関係に良いから」市民の8割が覚せい剤を使う北朝鮮の末期症状