若い女性を「ニオイ拷問」で死なせる北朝鮮刑務所の実態

北朝鮮北部の咸鏡北道(ハムギョンブクト)にある全巨里(チョンゴリ)教化所(刑務所)は、北朝鮮の拘禁施設の中でも虐待の横行に関する情報が広く知られている所だ。特に、中朝国境地帯と近いことから、脱北を試みて逮捕された人が多く収容されている。近年では女性の収容施設が拡張されており、口では説明できないような虐待が行われている。

この施設の中では相変わらず、虐待による犠牲者が続出しているもようだ。

咸鏡北道の情報筋は1日、デイリーNKの電話取材に対し、「教化所の受刑者の日程は、日中は伐採に行って、夜はかつらを作り、睡眠時間は5時間でされている。文字通りの労働搾取が堂々と行われている」と伝えた。

「牛車」を引いて…

情報筋はまた、「その中でも深刻なのは、山林での伐採労働だ」とし、次のように説明した。「山奥に入る際には木材を運ぶための牛車を引いて行く。牛ではなく人力で引くのだが、切り倒した木を満載して坂道を下るときが最も危ない。いったん制御が利かなくなると、人力ではどうしようもない。牛車の後ろ側にいる人々は手を離せば済むが、そうすると前方で引いている人はひかれてしまう。そのような死亡事故が日常茶飯事だ」

北朝鮮の労働現場では、凄惨な事故が相次いでいる。一般の労働者が働く場でそうなのだから、人命を軽視されている受刑者の労働環境がいっそうひどいものであろうことは想像に難くない。

一方、この情報筋は、施設内で最近発生した、もうひとつの虐待死について次のように説明した。
「海外から強制送還された1人の若い女性が栄養失調になったため、教化所当局は彼女を食堂勤務に移した。しかしそれは、残飯でも与えて栄養を摂らせようというような『配慮』からの措置ではなかった。『食べ物のにおいでもかいで生きてみろ』ということだったのだ。この女性は間もなく死亡してしまった」

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

教化所当局が、何を目的にこのような措置を取ったのかは詳らかでない。

しかし、何が目的であったにせよ、飢えている人間に食べ物を与えず、においだけをかがせるという行為は拷問以外の何物でもない。
北朝鮮の警察や秘密警察は様々な方法で拷問を行うが、このようなやり方を聞いたのは初めてだ。

金正恩党委員長は最近、国際社会の批判を気にしてか、警察や秘密警察に対して拷問をやたらと行わないよう指示を下したとされる。だが、それは一般国民に対しての話で、受刑者は対象に含まれていないということなのだろうか。

北朝鮮の刑務所で「フォアグラ拷問」が行われている

教化所(刑務所)など北朝鮮の拘禁施設では、ありとあらゆる形の人権侵害が行われている。人権の概念すら希薄な北朝鮮社会では、囚人たちは何ら抵抗する術を持たず、当局のなすがままだ。

(参考記事:北朝鮮、拘禁施設の過酷な実態…「女性収監者は裸で調査」「性暴行」「強制堕胎」も

そんな中、北朝鮮の北部山間地域にある慈江道(チャガンド)の教化所で2018年8月初め、受刑者2人が看守の人権侵害行為に抗議してハンストを行った。現地の内部情報筋によると、事件が起きたのは道内の城干(ソンガン)教化所だ。

軍需物資を横流しした罪で収監された男性2人は、戒護責任者(看守長)の30代男性チェ某による暴行と暴言に耐えかね、教化所の副所長らに待遇改善を直訴。しかし訴えが受け入れられなかったばかりか、「告げ口」に対するチェ某の報復が激化した。

すると2人は「こんな風に生きるのなら死んだほうがマシだ」と同月初め、3日間のハンストに入ったのだ。

これを受け、報告を受けた教化所当局は反省するどころか、「ハンストはわが共和国(北朝鮮)の憲法を否定し、党に対する全面的な挑戦行為だ」とし、2人に対して10日間の懲罰房(独房)入りを命じ、食べ物をホースで口に流し込み、無理やり食べさせた。つまり、高級食材のフォアグラを作るために喉の奥までホースを入れられ、強制的に餌を流し込まれるアヒルのような目に遭わされたわけだ。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

それだけではない。
「国家と人民を前にして拭いきれぬ罪を犯しながら、深く反省して罪を償うどころかハンストで反抗したという理由で、8月の大赦リストから除外されてしまった」(情報筋)

ただ、当局に反抗した2人が、即時処刑されず生かされているだけでも、以前と比べればマシなのかもしれない。北朝鮮では、権力に対する反抗は容赦なく踏みつぶされる。しごく当たり前の要求をしただけの労働者たちが、戦車でひき殺される例もあった。

(参考記事:抗議する労働者を戦車で轢殺…北朝鮮「黄海製鉄所の虐殺」

あるいは当局の目的は、2人を「見せしめ」として生き永らえさせることなのだろうか。
北朝鮮当局は公開処刑を通じ、人々に恐怖を抱かせる方法で体制の安定を保ってきた。

(参考記事:謎に包まれた北朝鮮「公開処刑」の実態…元執行人が証言「死刑囚は鬼の形相で息絶えた」

最近、その方法に変化が見られるとの指摘もあるが、人々の恐怖心を操作することなしに、金正恩党委員長はその独裁権力を維持することができないのである。