金正恩氏の「最愛の妹」は復権を果たしたのか

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北朝鮮の金正恩党委員長は12日、韓国の金大中元大統領の妻・李姫鎬(イ・ヒホ)さんが10日に死去したことを受けて、遺族に弔意文と弔花を送った。板門店(パンムンジョム)でこれを韓国側に伝達したのは、金正恩氏の妹の金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党第1副部長だ。

金与正氏を巡っては韓国紙・朝鮮日報が先月、ベトナム・ハノイでの米朝首脳会談が決裂した責任を問われ、謹慎を命じられたと報じていた。しかし今月3日、金与正氏は兄とともにマスゲームを鑑賞したことが報じられた。その際、彼女に与えられた席は朝鮮労働党副委員長たちより上位にあり、健在であることをうかがわせた。

そして今回、兄の代理として弔意の伝達を行ったことで、現在も最高指導者の側近のひとりであることが確認されたと言える。

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しかし、彼女に与えられている役割がどのようなものであるかについては、考察の必要があるだろう。

金与正氏の地位に変化が起きているとの見方は、朝鮮日報だけが伝えていたわけではない。米ニュースサイトのビジネスインサイダー(英字版)も2019年4月16日付で、金与正氏が北朝鮮の権力中枢から遠ざけられた可能性を指摘した。金与正氏は、4月11日の最高人民会議第14期第1回会議に代議員として参加したが、北朝鮮メディアが公開した政治局委員33人の団体写真に写っていなかったことなどが根拠だ。

彼女が本当に、米朝首脳会談決裂に関し何らかの責任を問われたのだとしたら、それは首脳会談が成功することを見込んだ、北朝鮮メディアの大々的な事前宣伝に対してだったはずだ。彼女が籍を置く党宣伝扇動部は、国内の思想統制やメディア戦略を統括している。

ただ、金与正氏はそもそも、金正恩氏の動線や参加行事を管理する、儀典担当として活躍してきたことが知られている。地方にも頻繁に視察に出る金正恩氏だが、彼には一般人と同じトイレを使うことが出来ないという事情もある。そんな条件下で金正恩氏の動きを取り仕切る事ができるのは、やはり信頼できる身内しかいないのだろう。

(参考記事:金正恩氏が一般人と同じトイレを使えない訳

それに党宣伝扇動部にはもうひとり、李英植(リ・ヨンシク)という名の第1副部長がいる。党機関紙を発行する労働新聞社の社長と責任主筆を歴任した人物で、今年2月1日に、党副部長から第1副部長に昇進していたことが確認された。

その経歴から見ると、メディア戦略は金与正氏よりも、李英植氏が担当しているような気がする。だが、李英植氏は首脳会談決裂後の3月6、7日の第2回党初級宣伝活動家大会で中心的な役割を果たしており、その地位に変化は起きていないように見える。

これをどう見るべきか。あくまで金与正氏への「問責説」が事実と仮定しての推理だが、もしかしたら金正恩氏は、米朝首脳会談を契機に金与正氏の役割拡大を期し、彼女にメディア戦略の一端を担わせたのではないか。

(参考記事:北朝鮮が日本に異例の「ありがとう」伝達…金正恩氏ら兄妹のメディア戦略

母親のルーツが大阪にあり、国内に頼るべき閨閥のほとんどない金正恩氏にとって、血を分けた妹の権力中枢における役割が拡大することは、政治的に必要なことであるはずだ。

だが、首脳会談の決裂でそのあてが外れ、示しをつけるために妹の役割を一時的に弱めたのではないか。すでに述べたとおり、これもひとつの推理に過ぎないが、金与正氏が金正恩氏にとってかけがえのない存在である事実は変わらない。さほど遠くない時期に、金与正氏はより明確な形で「復権」を果たすものと思われる。

(参考記事:金正恩と大阪を結ぶ奇しき血脈