「いっそ刑務所に送って」悲鳴止まぬ金正恩印のブラック現場

もっとも読まれている記事:北朝鮮の15歳少女「見せしめ強制体験」の生々しい場面
先月中旬、北朝鮮の平壌では市や郡の人民委員長(市長)を集めての会議が開かれた。その場で伝えられたことは「三池淵(サムジヨン)建設に労働者をより多く動員せよ」という指示だ。

三池淵は北朝鮮で「革命の聖地」として知られるとともに、風光明媚な景勝地でもある。金正恩党委員長は東海岸の「元山葛麻(ウォンサンカルマ)海岸観光地区」と並び、同地を「模範、標準となる山間文化都市」にする開発プロジェクトを最重視していると見られる。

しかし北朝鮮では、最高指導者の肝いり事業であるほど、無理な工期がゴリ押しされるなどして過酷な現場になりがちだ。

(参考記事:金正恩氏、日本を超えるタワーマンション建設…でもトイレ最悪で死者続出

指示に基づき動員が行われたが、それが「都合の悪い情報」を次から次へと広める結果となった。

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋は、今月8日に動員から戻ってきた人民班長(町内会長)からこんな話を聞かされた。

「突撃隊も、動員された一般住民も、現場でテント暮らしをしている。動員された人の数があまりにも多く、寝起きする場所を確保するのもままならず、人々は疲労感を訴えている」

工事にあたっているのは、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の建設部隊や、突撃隊と呼ばれる、各地の工場、企業所、機関などから駆り出された人々からなるタダ働き素人集団だが、あまりの環境の劣悪さに逃亡者が相次いでいる。その穴を埋めるために新たに人々を動員したが、その人たちも悪評の拡散に「一役買っている」というわけだ。

(参考記事:金正恩氏の背後に「死亡事故を予感」させる恐怖写真

この人民班長が語った三池淵での1日は次のようなものだ。

毎朝4時に起床、すぐに現場に向かい作業にとりかかり、午前9時になってようやく朝食時間となる。食事は現場で済ませるが、トウモロコシ飯に小麦粉を溶いただけの貧弱極まりない食事で、量も少ない。

正午に昼食が出るが、テントに戻って休むことは許されず食事は現場で済ませ、午後1時半から午後9時まで作業が続く。その後に夕食が出るが、昼食と夕食の間隔が長すぎて、空腹を訴える人が続出している。

それで日課が終わりかと思えばさらに働かされ、寝床につくのは午前1時だ。睡眠時間はたったの3時間に過ぎない。まともな寝床も食事も提供されないまま、1日15時間の重労働を強いられている。

「鍛錬隊や教化所(いずれも刑務所)に行くほうがマシだ、三池淵には二度と行かない」(人民班長)

生きて帰れただけでもまだマシかも知れない。ある青年は、極寒の三池淵に動員されたが風邪をこじらせ、家路についたものの帰らぬ人となってしまった。

(参考記事:氷点下20度の野外でタダ働き、若者の命を奪う「ブラックな現場」

現場での事故も多発している。

恵山から動員されマンション建設現場で働いていた人が、ハシゴから落ちて即死する事故が起きている。睡眠も食事もまともに取れない状態で夜間作業に動員された結果だ。

「国の仕事をして死んだので、英雄(称号)ではないとしても当局は何らかの措置で家族の面倒を見るべきだ」との声が数多く上がったという。つまり、適切な補償をするべきだということだ。

ところが、現場の指揮官は「みんな同じように食べて働いているのに、なぜ彼だけ死んだのか」と言って、本人の不注意が原因とし、補償はおろか、葬儀もまともに行わず遺体をどこかに運んで埋めさせたという。つまり、責任回避のために闇に葬ったということだ。その話が急速に広がり「死ぬかもしれないから怖くて行けない」という声が上がっている。

(参考記事:130人が犠牲「水族館の惨劇」のあり得ない結末

無理な工事の弊害は他にも現れている。せっかく建てたマンションの壁にヒビが入ってしまったのだ。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)からやってきた突撃隊が建てたこの建物だが、竣工検査でヒビが発見され、鑑定が行われた結果、基礎工事と、セメントの配合の比率に問題があったことがわかり、その責任で「突撃隊の大隊長と施工参謀を処罰すべき」という結論が出てしまった。

建設指揮部は「速度戦とは『速くやれ』という意味とともに『質も保証せよ』との意味もある」「敵対勢力との対決戦に勝つために元帥様の格別の関心のもとに全党、全人民が総力を上げて支援している工事を適当にやる行為は決して許されない」と突撃隊員に警告した。

これには現場から強い批判の声が上がっている。この大隊は、冬の寒さや資材不足に悩まされながらも複数棟のマンションを問題なく建ててきたからだ。たった1棟、それも壁にヒビが入った程度で法的処罰を加えるのはやりすぎだということだ。

人気記事:北朝鮮の15歳少女「見せしめ強制体験」の生々しい場面