中朝国境で暗躍する「20代の女性スパイ」の正体
今月初め、中国との国境に面した咸鏡北道の会寧(フェリョン)に住む女性3人が、脱北ブローカーの手引きで国境の川を越えて中国に向かおうとしたが、川岸に降りようとした瞬間、潜伏していた保衛部(秘密警察)の要員に取り押さえられた。
「ニオイ拷問」が横行
2人はおとなしく逮捕に応じたが、1人は川に向かって走り出し逃走を図った。保衛部は警告を発した後、拳銃を発射するなどし、結局逮捕した。
情報筋が保衛部の協力者から聞いた話によると、今回の逮捕劇は、元々一緒に脱北することにしていた女性の密告によるものだった。
脱北ブローカーは、現地で脱北希望者を募っていた。それに名乗り出たのはいずれも20代の女性だった。ところが、うち1人が途中で脱北を取りやめた。この女性が密告者だったのだ。
「脱北を諦めた女性は最初から保衛部の指示を受けて接近したスパイだった。彼女らの脱北計画は最初から保衛部に報告されていた」(情報筋)
保衛部は最近、脱北の計画を事前に察知するために、若い男女を抱き込み、脱北を試みる人やブローカーに接近させ、一網打尽にするおとり捜査を積極的に行っている。
それは、脱北事件が起きた場合に、当事者だけでなく警備担当者にも責任を問うる風潮が高まりつつあるため、脱北を未然に防ごうと、このようなスパイを活用しているというわけだ。地域住民は「これでは誰が信頼できるブローカーか見分けがつかない」とささやきあっているという。
以前は、脱北に失敗したり、成功したものの中国で逮捕され強制送還された場合には、過酷な刑罰が待ち構えていた。恐怖のあまり自ら命を断つ人もいた。
(参考記事:脱北に失敗した北朝鮮人夫婦の「究極の選択」)ところが、最近になって強制送還された脱北者に対する処罰は多少緩和され、一般の犯罪と同じ扱いにしているというのが情報筋の話だ。とは言え、北朝鮮の教化所(刑務所)の状況は、劣悪極まりないことには変わらない。施設内ではたとえば、若い女性を「ニオイ拷問」で死に至らしめるなどの行為が横行している。
(参考記事:若い女性を「ニオイ拷問」で死なせる北朝鮮刑務所の実態)
国境地域への訪問も規制が強化されている。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)清津(チョンジン)に住む米政府系のラジオフリーアジア(RFA)の情報筋は、秋夕(チュソク、旧盆)に合わせて国境に近いところにあるお墓参りをしようと旅行証(国内用パスポート)を申請しても、ほとんど発行されない状態だと述べた。その理由は脱北や違法な携帯電話の使用が増えることを恐れてのことだという。
とりわけ、家族の中に脱北者がいる場合には、理由の如何を問わずに完全に不許可となっている。
会寧の情報筋は、国境警備隊、保安署、保衛部など、国境地域を警備する人員が2倍に増やされたと述べた。旅行証の確認や荷物検査、身体検査を行うほど厳重な警戒を行っている。地域住民ですら移動が困難となっており、公式に抗議したが黙殺されているという。
(参考記事:金正恩氏の「風紀取り締まり」に北朝鮮庶民が強く反発)