北朝鮮の女子大生が「ある要求」に耐えきれず選んだ道とは…

北朝鮮ではご法度の韓流ドラマやK-POP。刑法は183条で「退廃的、色情的、醜雑な内容を反映した絵、写真、図書、録画物、電子媒体などを許可なく他国より輸入、制作、流布、保管した者は1年以下の労働鍛錬刑(懲役)に処する」と定めている。また、184条では視聴も禁じている。実際はこれ以上の量刑になることも少なくない。

それでも見る人が後を立たないのだが、最近、ある女子大生が韓流ドラマを見ていたといたところを摘発され、悲惨な運命を辿る事件が起きたと、平壌のデイリーNK内部情報筋が伝えてきた。

平壌に住んでいたある女子大生は、自宅で韓流ドラマや映画などを見ていたところを、韓流取り締まりを担当するタスクフォース「109常務」に逮捕された。

109常務は、女子大生の両親に対してこんな要求を突きつけてきた。

「娘の罪をチャラにしたいなら、ワイロとして5000ドル(約54万円)を上納せよ」

北朝鮮の一般庶民や下級幹部にとって、5000ドルは天文学的な数字と言っても過言ではないだろう。それでも、娘を救いたい一心で両親は金策に走った。しかし、集められたのは要求額の半分にも満たない2300ドル(約24万8000円)。

取り締まりに関係のある幹部に渡そうとしたが、「俺をバカにしているのか!」と逆上され、暴言を吐かれたという。

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この幹部が額が少ないことに怒ったのか、あるいは「ワイロの仲介などしない」という意味だったのかは不明だ。いずれにせよ、そのことを知った娘は「私にやましいことはない。死んで証明する。カネは取り戻してください」との遺書を残し、裏山で自ら命を断った。

この女性は、医大の卒業を控えた優秀な人物だったとのことで、そんな彼女がたかが韓流ドラマを見たくらいで死に追いやられたことに、近所の人たちは涙を流して怒りに震えているという。

情報筋は、「韓流ドラマを見るには本当に注意が必要だ」として、ワイロの額が上がっていることを指摘した。

「最近、109常務は5000ドルくらいでは動かない、1万ドル(約108万円)を払わなければならない」

このように、韓流の取り締まりをネタにして、ワイロをゆすりとろうとする事件が報告されている。

両江道(リャンガンド)の情報筋によると、今年5月に三水(サムス)郡の協同農場の7世帯が、韓流ドラマを見ていたところを109常務に踏み込まれた。彼らは「14歳以上は教化所(刑務所)に行くことになる」と脅迫した上で、1000元から2000元(約1万5000円〜3万円)のワイロを要求した。

農民と顔見知りという取締官は「面倒を見るべき甥が3人いる。ノルマもある。500元や1000元では見逃してやれない、少なくとも1500元(約2万2700円)が必要だ」と、使いみちの内訳まで明らかにした上で、ワイロを要求した。

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109常務は通常、保衛部(秘密警察)、保安署(警察署)、検察所などの人員からなるが、協同農場に現れた人員は、パソコンの専門家と地元の青年同盟(金日成金正日主義青年同盟)のメンバーだった。地元の事情をよく知る青年同盟のメンバーが、生活苦を打開するために、隣人を売ったものと考えられる。

しかし、いくら取り締まりが厳しくとも、一度韓流にハマった北朝鮮の人たちは、あの手この手を尽くして韓流を見ようとする。特に、外の世界の情報に飢えている若者はなおさらだ。

「大学生たちは、外国映画などを見ているのがバレたら処罰を受けることを知りながら、好奇心を抑えられずに見てしまう。それを防ぐ方法はない」(情報筋)

大学生たちは、スマートフォンに韓流ドラマなどのファイルを暗号化するアプリを仕込んでいて取り締まりを逃れようとしている。それも機種別にアプリが用意されている。機種別にセキュリティレベルが異なるからだが、これなら109常務がパスワードを解かない限りは、証拠を押さえることができない。

しかし、デイリーNK取材班で確認した結果、北朝鮮製スマホの最新機種である「平壌2423」には、このアプリがインストールできないことが判明した。つまり、当局もこのアプリへの対策に乗り出しているということだ。