「金正恩の首都」に銃声を響かせた兵士の悲惨な運命

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朝鮮人民軍(北朝鮮軍)には警務隊と呼ばれる組織がある。兵士や軍関係者の犯罪を取り締まる権限を持つ、憲兵隊とよく似たものだ。独自の哨所(検問所)を各地に設置、人や物資の出入りを監視しているが、その権限を利用して通行料、つまりワイロを要求したり、横暴に振る舞うなど、とかく評判が悪い。それだけに、時には報復に遭うこともある。

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そして最近、そんな警務隊の鼻っ柱がへし折られる事件が起きたと、平壌のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

事件が起きたのは、郊外の勝湖(スンホ)区域にある警務隊哨所でのことだ。平壌での建設事業を担っている人民軍7総局護送部隊の兵士が運転していたトラックが、停止命令を無視して通過しようとした。警務員(憲兵)はトラックを追跡し、運転していた兵士に銃撃を加えた。弾は兵士のふくらはぎを貫通。緊急手術を受け、兵士は幸いにも一命をとりとめた。

この兵士は、入隊してから間もない新兵で、上官の頼みを受けてタバコなどの生活必需品を買うためにトラックに乗って部隊の外に出た。「警務隊の取り締まりにひっかかるな」との指示を受けていて、それに忠実に従ったようだ。どうやらこの外出は、軍規に反する行為だったのだろう。

ところが、負傷した兵士の親から「戦時でもないのに、同じ立場の兵士を銃撃するなんてひどすぎる」とのクレームがついた。また、7総局も警務隊に抗議した。

兵士に銃撃を加えた警務員とその上官は、保衛司令部に呼び出され取り調べを受けることになってしまった。

ここで問題とされているのは、神聖なる革命の首都・平壌に銃声を鳴り響かせてしまったことだ。平壌の安寧は、最高指導者の権威に直結するものと言え、それを乱せば重罪に問われかねない。また、同じ軍の兵士を銃撃したことも、軍規に違反する行為であるとのことだ。そのせいで2人には、重い処罰が下されると予想されている。

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元々、新兵に生活必需品のおつかいを頼んだ上官に根本的な責任があり、警務官の停止命令を違反した新兵にも責任の一端があるはずだが、なぜか責任を問われたのは、警務官とその上官だけだ。

考えられるのは、撃たれた新兵の親は党や政府の高級幹部か、あるいはそんな人たちとの強力なコネを持つ人物ではないかということだ。法の下の平等より、カネとコネが物を言う今の北朝鮮を表した事件と言えよう。警務隊の鼻っ柱がへし折られたことで、警務隊にいじめられていた多くの兵士は喜んでいるだろうが。

(参考記事:「量刑はワイロで決まる」北朝鮮の常識

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