「自滅を招く」金正恩氏の“タブー破り”に北朝鮮で動揺広がる

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北朝鮮の金剛山(クムガンサン)観光地区。韓国現代グループの故鄭周永(チョン・ジュヨン)会長が、南北交流の一環として、故郷にほど近いこの地に莫大な資金を投資、建設した観光施設に、韓国内外の観光客を多数送り込むというもので、金大中政権下の1998年11月18日に始まった。

当時、大飢饉「苦難の行軍」で青息吐息だった北朝鮮はここから得られる莫大な外貨で延命に成功した。そのことは、北朝鮮人なら誰でも知っているという。

ところが、2008年7月11日に観光で訪れた韓国人女性が、警備にあたっていた朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の兵士に射殺される事件が起き、その2日後には観光が中断されてしまった。このことは、北朝鮮国民にも強い衝撃を与えた。

(参考記事:北朝鮮国民「金剛山射殺事件に衝撃」

それから10年。金剛山観光地区を視察した金正恩党委員長は、施設をけちょんけちょんにけなした。

「建築物が民族性というものが全く見られず寄せ集め式だ、建物をまるで被災地の仮設テントや隔離病棟のように配置した、建築美学的にひどく立ち後れているばかりか、それさえ管理されていないので非常にみすぼらしい」

「以前に建設関係者らが観光サービス建物を見るにもきまり悪く建設して自然景観に損害を与えたが、容易く観光地を明け渡して何もせず利を得ようとした先任者らの間違った政策によって金剛山が10余年間放置されて傷が残った、土地が惜しい、国力が弱い時に他人に依存しようとした先任者らの依存政策が非常に間違っていた」

(参考記事:「見ただけで気分が悪くなる」金正恩氏、金剛山の韓国施設を罵倒

この発言を巡り、北朝鮮国内では大きな波紋が広がっていると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

国営メディアを通じて金正恩氏の発言を聞いたという平安北道(ピョンアンブクト)新義州(シニジュ)の情報筋は、「最高尊厳(金正恩氏)の前任者と言えば、神格化されている金日成主席(祖父)、金正日総書記(父)を指したものではないのか」として、市民が戸惑いを見せていることを伝えた。

北朝鮮は、最高指導者の命令や指示を不変のものとする「遺訓統治」が国是であるため、いくら時代遅れで間違った政策であっても、異を唱えることは決して許されない。金正恩氏とてそこから自由ではない。そのため、従来の政策に不都合が見つかっても、表向きは先代のやり方を踏襲した上で、中身を変える方式が取られる。ところが今回の発言は、そうした「禁忌(タブー)」を破ったものと読み取れるため、動揺が広がっているのだ。

(参考記事:愛人女優を「ズタズタにして処刑」した父親への金正恩の反感

平安南道(ピョンアンナムド)の別の情報筋は、金正恩氏の先代批判をそのまま報じたのは、北朝鮮メディア史上初めてのことで、多くの市民が首を傾げているとし、その理由を次のように推測した。

「深刻な生活苦で餓死者まで出ている状況で、党中央に対する世論が極度に悪化するや、不安がった最高指導部が生活苦の責任を先代の首領になすりつけているのではないか」

また、建物の撤去を命じたことについても「見せつけるための業績づくりの建設に投入した資金があれば、食糧難はとっくに解消していたはず」と批判した。

(参考記事:「15万人の血と涙」で建設が進む金正恩氏の「ブラック・リゾート」

金正恩氏が、新築やまだまだ使える建物を「気に入らない」との理由で建て替えさせた例は一度や二度ではないが、今回はその規模や意味合いが異なることから、さらなる動揺が広がっているようだ。

(参考記事:金正恩氏視察先の工事現場が崩壊…死傷者多数

平安北道の貿易関係者は、同僚らもこの建物の撤去命令に非常に驚いているとし、金正恩氏が自ら「なんの前提条件や対価もなしに、開城工業地区と金剛山観光を再開する用意があります」とした今年の新年の辞での言葉を、いとも簡単に翻したと批判した。

また、中国からの支援を頼りに蛮勇を振るっているが、莫大な外貨を投入して作った観光地区をあっさりと捨ててしまうようでは、中国にも信頼されないとして、金正恩氏のやり方に「自滅を招くのではないか」と懸念を示した。

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