文在寅政権の破滅を呼ぶ「憲法違反」の重大疑惑

もっとも読まれている記事:北朝鮮の15歳少女「見せしめ強制体験」の生々しい場面
韓国政府は7日午後、北朝鮮の20代男性2人を、南北の軍事境界線にある板門店(パンムンジョム)を通じて北朝鮮に追放した。

追放後に韓国統一省が発表したところによれば、2人は今月2日に日本海上で拿捕(だほ)した北朝鮮のイカ釣り漁船の船員で、船内で16人の乗組員を殺害し、逃亡していたものとみられるという。韓国政府が5日、北朝鮮側に2人の追放の意思を伝えたところ、6日に北朝鮮側から引き取るとの返事があったという。

2人は韓国に亡命する意思を示していたとされ、追放は事実上の強制送還に当たる。韓国政府が亡命意思を持つ北朝鮮国民を強制送還したのは初めてだ。その理由について統一省は、「重大な犯罪であり、韓国の国民の生命や安全の脅威となる。凶悪犯罪者として、国際法上の難民としても認められないと判断した」としている。

しかし、この措置には韓国の国内外から厳しい批判の声が上がっている。デイリーNKと同一グループの国民統一放送など、韓国と米国の18の人権NGOは11日、共同声明を発表。文在寅政権による強制送還措置の違法性を指摘した。

では一体、何が問題なのか。

まず、2人に犯罪の容疑があったならば、十分に時間を割いて、真相を徹底的に究明するのが先決だった。しかし、韓国政府による調査期間はわずか5日であった。送還の翌日、韓国政府はイカ釣り漁船も北朝鮮当局に返還した。犯罪の事実を見極めるための重要な証拠資料を処分したのである。

次に、統一省は2人が凶悪犯罪者だったことを理由に、また「北朝鮮離脱住民の保護及び定着支援に関する法律」第9条を根拠に強制送還を正当化しているが、これも話にならない。この条項は、脱北者を「保護対象者として決定していないことができる」としているだけで、どこにも追放への言及はないのだ。

韓国政府が同法に基づいて脱北者を保護対象者として決定した場合、その脱北者は政府から定着支援金や住宅・教育・医療・雇用面での支援を受ける。犯罪の前歴を理由に保護対象にならなかったら、これらの支援を受けられなくなるだけだ。

そもそも大韓民国の憲法や各種の法律には、同国に入国した北朝鮮国民を、本人の意思に反して強制的に送還できる規定はない。また、北朝鮮との間に犯罪人の引き渡しに関する取り決めもない。それ以前に、朝鮮半島全体を自国の領土としている韓国の憲法によれば、北朝鮮は国家として認められておらず、北朝鮮国民は韓国の国民ということになる。それにもかかわらず、件の2人について適法な司法手続きも行わず、北朝鮮に引き渡してしまったというのは、憲法違反の疑いありということになる。

実際、韓国に潜入した北朝鮮の武装工作員が、銃撃戦で韓国軍兵士らを殺傷した末に逮捕・収監され、後に転向して亡命の意思を示し、韓国国民として社会生活を送っている例もあるのだ。

今回の場合、16人殺害が仮に事実であっても、捜査の結果として立証できず、本当は凶悪犯である2人を韓国社会に放ってしまうリスクはあったかも知れない。それに、北で犯した殺人を韓国で裁けるのか、という問題もある。しかしそれとて、事実の見極めがない時点での心配事であり、憲法違反を犯してよい理由にはならない。

また韓国政府は、2人が北に送還された場合、拷問などの虐待を受ける蓋然性が高いと認識できる立場にある。韓国政府が批准している国連拷問禁止条約は第3条において、「締約国は、いずれの者をも、その者に対する拷問が行われるおそれがあると信ずるに足りる実質的な根拠がある他の国へ追放し、送還し又は引き渡してはならない」と定めており、送還は同条約に違反している。

(参考記事:若い女性を「ニオイ拷問」で死なせる北朝鮮刑務所の実態

そしてさらに由々しきは、韓国政府がこの一件を、国民の知らぬ間に処理しようとしていた形跡があることだ。韓国メディアが途中で送還の情報をつかんでいなければ、政府は送還が行われるまで何も発表しないか、あるいはまったく隠ぺいしてしまったかもしれない。

また、送還の決定は主務官庁であるはずの統一省や国家情報院ではなく、青瓦台(大統領府)の国家安保室が主導している。国家安保室は日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄や北朝鮮の弾道ミサイル能力評価を巡り再三にわたって「ウソ」が指摘されるなど、このところ悪名が高い。

憲法違反の疑いが絡む事柄だけに、この問題に対する野党やメディアの追及は激しいものになるだろう。もしかしたら、文在寅政権の命取りにもなりかねない。

それにしても、青瓦台はなぜ、このような敏感な問題で、これほどリスキーな行動に出たのだろうか。