北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…
女子高生、見せしめ
北朝鮮の人権侵害が、23歳の女子大生の人生を狂わせた。なぜ、そのようになかったのか。
今月6日、米国は最高指導者の金正恩党委員長を、人権侵害の首謀者としてはじめて名指しで明記した。北朝鮮は米国の措置に対し、「外交ルートを遮断する」と猛反発。しかし、いくら反発しようとも、せい惨きわまりない北朝鮮の拷問や処罰の実態の多くは暴かれており、米国の措置はむしろ遅すぎると言っても過言ではない。今回、女子大生が自殺を選んだきっかけは「韓流」と北朝鮮当局の「拷問」。この二つは、現在進行形の北朝鮮の人権侵害を象徴している。
米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によると、北朝鮮の秘密警察・国家安全保衛部(秘密警察)と韓流ドラマを取り締まる組織「109常務」は大々的な取り締まり作戦を行い、現地には殺伐とした空気が流れているという。1月には、女子高生も海外映画を見た罪に問われていた。
そして今年5月、109常務は、清津(チョンジン)市浦港(ポハン)区域南江洞(ナムガンドン)で一人暮らしをしていた23歳の女子大生の家を急襲、家宅捜索を行った。
友人の名を「白状」
運悪く、彼女の家からは韓国映画が保存されたメモリーカードが発見されたことにより悲劇が起こる。女子大生は、保衛部に連行され、激しい拷問を加えられた。そして、 10年の懲役刑が避けられないことを悟った彼女は、いとこの美容室から持ちだしたパーマ液を飲んで、服毒自殺を図った。現地情報筋は、彼女の安否を伝えていないが、おそらく死亡したものと思われる。
取り調べでは、木の棒で殴打される、鉄線や革のベルトで締めあげるなど無慈悲な拷問が23歳の女子大生に加えられた。
彼女にとって、とても耐え切れるものではなく、メモリーカードをくれた友人の名前を白状してしまう。そして、自ら命を絶つ。
女性収監者は裸で
せい惨な拷問によって、友人の名前を白状してしまったこと。待っているのは地獄のような10年間の拘禁生活。彼女が自殺に走った動機が、人生に絶望を感じたであろうことは想像に難くない。
これだけではない。清津市では3月にも、取り調べを受けていた40代の女性が取調室のある5階から投身自殺していた。
北朝鮮の外国文出版社が2015年6月に発行した「朝鮮についての理解」人権編には次のように書かれている。
「共和国(北朝鮮)では、人間の生命と健康を最も大切に考え、人間の生命を侵害する行為を絶対に許さない」
「人に対して、肉体的、精神的にひどい苦痛を故意に与える拷問、または非人間的で不名誉な取り扱いや処罰を厳しく禁じている」
欺瞞に満ちた内容であり、明らかに国際社会の人権攻勢に対して表向きだけ取り繕ったものに過ぎない。確かに韓流ドラマや海外映画を視聴することは、北朝鮮の法律に違反することだろう。
その一方、極端な情報統制も人権侵害である。
ましてや韓流ドラマ、映画を見たという理由だけで、連行して激しい拷問を加えることが正当化されるわけがない。
コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち
北朝鮮で庶民を相手に商売を行う女性たちの、目を覆わんばかりの実情が明らかになった。薬物の力を借り道端に立ち、わずかコメ数キロ分の現金を得るために、着けない男性を相手にする。
外見と年齢で
「恵山市の駅前広場には、夜になると多くの女性が客引きが現れます。一回の値段は中国元で20元(約300円)から30元(約450円)。客引きがいる場合には別途10元(約150円)を払います。行為をするのは近所の民家や宿屋の一室。男性は着けません。客は軍人がねらい目です。駅前に降り立つ軍人は将校の場合が多く、出張のための現金を持ち歩いているためです。電車も予定通りに動かないので、時間をつぶす需要もあります」。
北朝鮮北部・両江道(リャンガンド)第一の都市、恵山(ヘサン)市の事情に詳しい脱北者は25日、デイリーNKジャパンの取材にこう答えた。30元は約4万北朝鮮ウォン。コメ9キロ程度が買える。
着用は「ゼロ」
同様の証言は、韓国の有力日刊紙「東亜日報」で十余年にわたって記事を書き続ける脱北者のチュ・ソンハ記者も、2016年7月、人気ブログ「ソウルで語る平壌の話」で明かしている。こちらは咸鏡北道(ハムギョンブクト)第一の都市・清津(チョンジン)市のケースだ。
「午後10時が過ぎると、水南(スナム)市場から道立劇場まで続く、長さ約4キロの大通りの脇道の暗がりの中に、女性たちがずらりと立ち並んでいます。みな、体を売りにきた女性たちです。その数は数え切れないほどです。価格は見た目と年齢で決まります。一般的には、中国元50元(約750円)ですが、40代以上になると30元(約450円)、若い女性は100元(約1500円)を受け取ることもあります。価格交渉がまとまると、近所の一般住宅に入ります。代金を取り、場所を貸す家も多いです。男性によっては、ツマミと酒を持ち込んで、女性と一杯やる者もいます。男性は使いません」。
覚せい剤に頼る
いずれの場合でも男性は着用していない点が特徴だ。元々、性に対し保守的な北朝鮮では、着用率が低いことで知られている。WHOは同国における避妊具の普及率を69%としているが、筆者がインタビューした多くの男性の着用率はなんと「ゼロ」であった。チュ記者のブログはこう続く。
「妊娠した場合には、女性が処置をするだけです。性病検査などはしないので、梅毒など、たくさんの性病が蔓延しています」
さらに深刻なのが、本来は恥じらいの多い北朝鮮の女性たちに、勇気をもたらす「覚せい剤」のまん延だ。ブログを続けて引用する。
「売春する女性の多くは、麻薬に酔った状態で道端に立ちます。『オルム(氷)』と呼ばれる麻薬(覚せい剤)は1グラム50元(約750円)程度で買えます。これを10回に分けて吸うんです。こうすることで、夜通し通りに立つことができるようになるだけでなく、見知らぬ男性の前での恥ずかしさも抑えることができるというのです」
「オルム」はメタンフェタミン、すなわちヒロポンのことだ。地域と品質によって異なるが、北朝鮮では1グラム(10回分)を50元から120元(1800円)で気軽に買うことができる。
(参考記事:北朝鮮女性の間で「覚せい剤ダイエット」が流行中)北朝鮮で売春が、職を持てない女性の主要な収入源になっていることは、これまで本誌を通じ何度も述べてきた。北朝鮮において売春は、1990年代の大飢饉「苦難の行軍」の時期に拡大。国家の配給制度が事実上崩壊し、食べ物を手に入れるため現金収入が必要となったからだ。しかし、社会の急激な変化の中、現金を得るための「就職先」が容易に整備されるはずもない。かくして、女子大生から主婦まで、商売をする元手が無い者にとって売春は、唯一とも言える生計手段として完全に社会に根付いている。また、国内経済が危機を迎えるたび、こうした傾向に拍車がかかってきた。
(参考記事:女子大生売春に悩む金正恩氏)だが、そんな女性たちを待ち受けているのは「破滅」である。北朝鮮には麻薬中毒患者のための施設などなく、自慢の「社会主義無償医療システム」も、薬品はすべて市場で自前に入手しなければならないという、看板倒れに過ぎないのが実態だ。性病か薬物中毒で倒れれば、現金収入が絶たれ、死ぬしかない。
あらゆるセーフティネットのない社会、北朝鮮で、今日も貧しい庶民の女性は道端に立ち、無防備にその体を差し出しているのである。