北朝鮮で1990年代に淫乱小説が流行、金正日氏の趣向で

韓国企業が多数進出している北朝鮮の開城工業団地。女性用の下着を作っているある企業が2007年6月、閉業の危機に追い込まれた。パッケージに外国の女性モデルの写真を使ったからだ。

北朝鮮側からは「どうしてこんな写真を使えるのか」と激しい抗議を受けたが、結局女性からなる包装作業の労働者以外の立ち入りを一切禁じることを条件に、ようやく稼働継続が認められた。

このエピソードを見ると、北朝鮮政府は性に関する件に非常に保守的で、厳格な基準を持っているように思えるが、実際はそうでもない。

北朝鮮は、庶民に対しては厳しい性の基準を要求するが、党幹部は比較的自由だ。自由を超えて、犯罪そのものであることもしばしばある。例えば、労働党への入党をエサに女性を誘惑することはよくあることだ。脱北者は「幹部たちは、権力を利用して愛人を囲う、内々の話で『愛人がいない』と言おうものなら、一人前扱いしてもらえない」と語る。

北朝鮮の幹部の間では1990年代中盤、男女の関係を淫らに描いた書籍や映像が流行した。北朝鮮では、性的表現を描いたものを「肉談」と呼ぶが、当時は幹部たちが「肉談集」、つまりエロ小説を回し読みし、それに関連したビデオテープも見ていた。今では、今では、海外から持ち込まれたポルノビデオに取って代わられた。

エロ大流行は金正日氏の趣味趣向の影響

北朝鮮で肉談集が出回るようになったきっかけを作ったのは、なんと金正日総書記だ。

金正日氏が1996年、咸鏡北道(ハムギョンブクト)にある名勝、七宝山(チルボサン)を訪れたときのことだ。七宝山の講師(観光ガイド)が、金正日氏に夫婦岩の由来について説明した。戦場から無事に帰ってきた男性を、女性が抱擁したという伝説が由来なのだが、講師はところどころに肉談を混ぜて説明した。それを聞いた金正日氏は、説明が大変面白いと褒めちぎった。

それを聞きつけたのか、平安北道(ピョンアンブクト)の鍾乳洞、龍門大窟(リョンムンテグル)、黄海南道(ファンヘナムド)の九月山(クウォルサン)など、全国各地の名勝の管理者が、先を争って岩や峰に性的な名前を付けた。そして、金正日氏がやって来ると、講師はわざわざ肉談混じりの説明を行った。最高指導者の意向が絶対である北朝鮮ならではの現象と言えよう。

金正日氏も大いに気に入ったようだ。彼は、2002年4月19日に訪れた龍門大窟で、男性器に見える男根石と、女性の胸に見える鐘乳石の説明をする講師のキム・ミョンオクさんの話を聞き、大声で笑い満足したという。話はそれだけにとどまらない。

彼女の説明を聞いて大爆笑した金正日氏は、キムさんに「お前は結婚しているのか」と尋ねた。キムさんは「まだ結婚していないが、好きな人はいる、この洞窟の管理人だ」と答えたところ、金正日氏は「それはよい、明日、結婚式をあげなさい」と返し、翌日には豪華料理を届けさせたという。それを受け取った両人は、家族を集めて結婚式をあげた。

国営出版社が先を争いエロ小説を出版

肉談の流行はさらに続いた。1998年、国営の金星青年出版社は北朝鮮初の肉談集「七宝山伝説集」を出版したのだ。堰を切ったように、各出版社が先を争って肉談集を出し始めた。2003年には芸術総合出版社が「金剛山無我の境」という淫乱小説を出すに至った。幹部向けに特別編集された、その名も「肉談集」(文学芸術総合出版社)という本すら出版された。これら肉談集には、主に朝鮮王朝時代の両班(貴族)や役人、芸妓の性行為を描いた短めのエピソードが多数収録されている。辞書ほどの厚さのエロ小説で、当時の韓国の基準でもわいせつ物に当たるほどの代物だった。2000年には中央放送委員会の男女のアナウンサーが録音した肉談テープまで作られた。読んで聞かせたいポルノといったところだろう。

大飢饉「苦難の行軍」で一般人民が飢えに苦しみ、国内の治安も乱れに乱れていたころ、幹部連中はエロ三昧だったというわけだ。金日成主席の存命時には決して許されなかったことだろう。そんな大々的に出回るようになったのは、名勝でガイドのエロ解説を聞いて爆笑するような、金正日氏の趣向によるものだ。それが、最高指導者の意向には絶対に従うという北朝鮮の政治風土で増幅された結果と言えよう。

(参考記事:強盗を裁判抜きで銃殺する金正日流の治安対策

幹部向けのエロ小説スペシャルエディション

北朝鮮史上初めて、性的な表現が公の場に現れたのは、ミュージックビデオだった。「朝も好き、夕方も好き」、「娘時代」, 「オンヘよ」などの生活歌謡に合わせて、ビキニを着た女性たちが踊るというもので、主に旺載山(ワンジェサン)軽音楽団のメンバーや、放送演劇団の俳優が出演していた。

だが、いつしかそれらも姿を消した。海外で作られたポルノビデオが流入するようになったからだ。多くが中国製で、1997年頃から密輸業者の手で持ち込まれ、軍や政権の幹部が最大の顧客層だった。

ポルノビデオが保存されたCDのレンタル料は、1時間で1500北朝鮮ウォンから2000北朝鮮ウォン。中学生が、お金を出し合って見るのが流行している。当局は取り締まりを行っているが、「肉談まみれ」になっている幹部が、若者のちょっとした楽しみを取り締まっているわけだ。

脱北者たちは、韓国企業の女性モデルのパッケージを咎めた北朝鮮当局が、どれだけ矛盾したことをやっているのか、よくわかっているのだ。

(ムン・ソンフィ記者、慈江道出身、2006年韓国に入国)

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