流れ落ちる美女たちの…北朝鮮「御曹司」の猟奇的殺人
長期化する経済制裁に新型コロナウイルス対策の国境封鎖が重なったことで、経済難のいっそうの深刻化が伝えられる北朝鮮。1990年代の大飢饉「苦難の行軍」の時と同様、治安悪化の様相も表れている。
だが庶民の困窮が増している一方で、一部の富裕層はやりたい放題を続けているようだ。脱北者で東亜日報記者のチュ・ソンハ氏が自身のYouTubeチャンネルとブログで、北朝鮮の金持ちの息子が起こした猟奇的な連続殺人事件について伝えている。
2代目ボンボン
それによると、事件は昨年8月に発覚した。犯人は、平安北道(ピョンアンブクト)の鉄山(チョルサン)郡にある外貨稼ぎ機関の責任者だ。機関と言っても実態は私企業だという。朝鮮労働党や朝鮮人民軍の高官にワイロで取り入り、機関の資格を得て利権を掌握していたということだ。
犠牲者30人以上
貝の養殖でぼろ儲けしていたこの機関の責任者は、親から利権を譲られた2代目だった。カネの力で放蕩の限りを尽くしていたが、やがて暴走に歯止めがかからなくなった。カネで買った美女を船上パーティーに連れ出し、薬物を与えるなどの行為を続けていたが、言うことを聞かないと殺害し、川に投げ捨てた。犠牲者の数は30人以上とされ、チュ氏も「信じてよいか迷う数字だ」と述べている。
いずれにせよ、下流に流れ落ちた遺体が次々に上がったことで犯行が発覚し、逮捕に至ったという。
犯人がどうなったかについてチュ氏は言及していないが、北朝鮮当局がこうした犯罪を大目に見ることはない。特に、現在のような情勢下では治安維持のための見せしめとして、公開処刑にすることが多い。
家族風呂の退廃
そして、事件はこれだけでは終わらなかった。犯人はちょくちょく平壌に出ては、東大院(トンデウォン)区域にある総合レジャー施設「紋繍院(ムンスウォン)」で羽目を外していたことが取り調べの過程で明らかになった。1982年に完成した紋繍院は、1階には大浴場、プール、2階には家族風呂と個人風呂、理容室、美容室などを備える。(参考記事:美女2人は「ある物」を盗み公開処刑でズタズタにされた)
そしてこの施設が、平壌の富裕層の「退廃的な楽しみ」の中心となっていたことが発覚。関係者が大量検挙され、処刑や追放などの大粛清が行われたという。ちなみに、紋繍院は以前に伝えた名門女子大生らの組織売春事件の舞台になった場所でもある。
金正恩「女子大生クラブ」主要メンバー6人を公開処刑
どうやらこの二つの出来事は、紋繍院を通じてつながっていたようだ。北朝鮮で売春は違法だ。刑法249条「売淫罪」では「売淫行為を行った者は1年以下の労働鍛錬刑に処す。前項の罪状が重い者には5年以下の労働教化刑に処す」とされている。
また、行政罰を定めた行政処罰法220条「売淫行為」は「売淫行為を行ったり、それを助長、仲介、場所を提供した者には罰金または3ヶ月以下の労働教養処分とする」としている。
これは、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」のころ、生きていくために売春を行う女性が増えたことに対処するために、2004年の法改正のときに新設されたものだが、その後も売春の摘発事例は枚挙に暇がない。
「家族風呂」で
今年7月には、首都・平壌の総合レジャー施設で組織的な売春を行っていたグループが摘発された。北朝鮮の首都・平壌の司法機関の幹部が、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)に事件の詳細を語った。市内の東大院(トンデウォン)区域にある紋繍院(ムンスウォン)は、1982年に完成した総合レジャー施設で、1階には大浴場、プール、2階には家族風呂と個人風呂、理容室、美容室がある。
男女のカップルが家族風呂に入るには、結婚証明書が必要となるが、規制が「金のなる木」になるのが北朝鮮の常。一般人が気軽に利用できる宿泊施設が存在しないため、ラブホテル代わりに使われ、不倫の温床となっている。
そんな紋繍院の責任者が、有名映画俳優、平壌音楽舞踊大学、平壌演劇映画大学の教授らに声をかけ、ビジネスを始めることにした。
強要された女子学生
在学中の20代前半の女子学生に「1ヶ月に500ドル(約5万3000円)以上儲かる仕事がある」などと声をかけ、施設内のカラオケ店で売春をさせるというものだ。客は、中央や平壌市党(朝鮮労働党平壌市委員会)の幹部らだった。教育当局は、大学に対して頻繁に「経済課業(ノルマ)」の指示を下し、学生たちは様々な名目で金品を納めることを強いられていた。また、教授への付け届けなど、北朝鮮での学生生活は何かと物入りだ。紋繍院の責任者や教授らは、そんな女子学生の足元を見たのだろう。
(参考記事:北朝鮮の大学生は「妊娠中絶ビジネス」も…若者は思想よりカネ)ところが、組織は一網打尽にされた。声をかけられついて行ったものの、売春だとは知らずに性行為を強要された女子学生が通報したのだ。
「大事にしてたのに」金正恩が激怒
司法当局は現場で関係者を逮捕、取り調べ、その結果は金正恩党委員長に報告された。前述の幹部によると、それを受けて金正恩氏は、自分が大事にしている平壌音楽舞踊大学、平壌演劇映画大学の学生が売春に加担したことに激怒、組織の主要メンバーらの銃殺を指示したもようだ。
(参考記事:女性芸能人らを「失禁」させた金正恩の残酷ショー)
そして、市内の龍城(リョンソン)区域の和盛洞(ファソンドン)で7月20日、平壌市党の幹部4人と斡旋者2人が公開銃殺にされた。「5年以下の労働教化刑」という法規定を大幅に上回る判決だが、法よりも最高指導者の意思が重要視されるのが北朝鮮なのだ。(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち)
「幹部が遊びながら殺した女性を焼いた」
だが、北朝鮮で若い女性を食い物にしているのは、こうした人々だけではない。韓国に亡命した太永浩(テ・ヨンホ)元駐英北朝鮮公使の近著『3階書記室の暗号 太永浩の証言』(原題)によれば、2013年12月に金正恩氏の叔父・張成沢(チャン・ソンテク)元党行政部長が処刑された際、いっしょに粛清された幹部について、次のような情報が出回ったという。
「労力英雄の称号を受けたオボンサン管理所の所長も拘禁された。張成沢が遊び相手にしていて殺してしまった女性たちを、焼いてしまったという嫌疑のためだった」
「主人公」は金正日
オボンサン管理所は、火葬場や共同墓地を管理する組織だ。張成沢氏に死刑を言い渡した特別軍事法廷の判決は、同氏が数多くの女性と不倫関係にあり、麻薬を服用していたと指摘していた。「殺してしまった女性たち」というのは、薬物の過剰摂取か何かで死んでしまった女性たちがいたということだろうか。
(参考記事:「エリート女学校長は少女達を性の玩具として差し出した」北朝鮮幹部が証言)もっとも、公正な裁判で出されたとは言えない判決を信用するわけにはいかず、太永浩氏の証言も具体的とは言えない。だが、これと似たような話で、かなり具体的なストーリーが伝わっている例もある。
その醜聞の主人公は、ほかならぬ金正日総書記だ。ある有名女優との不倫関係が父・金日成主席にばれるのを恐れ、罪を着せて銃殺してしまったという内容だ。
(参考記事:機関銃でズタズタに…金正日氏に「口封じ」で殺された美人女優の悲劇)残忍な粛清では祖父や父にも劣らない金正恩氏だが、今のところはまだ、ここまで醜悪なエピソードは伝えられていない。しかし、絶対的な権力は必然的に腐敗する。彼が父と同様の罪に手を染めるのも、時間の問題ではないだろうか。