泣き叫ぶ家族を白昼に連行…北朝鮮で「最も残酷な光景」
北朝鮮が、法治主義国家ではなく、指導者の「徳」によって国が成り立っている人治主義の絶対王朝である事実が、このようなところに現れている。
こうした抑圧的な体制を底辺で支えているのは「不届き者」を通報する密告者だが、結局は体制の維持に利用されるだけで、誰も幸せにしないのだ。そんな実例を、平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
(参考記事:幼い兄妹を物乞いに追いやった北朝鮮の「中途半端な法治主義」)北倉(プクチャン)火力発電所で働く40代男性、パクさんは先月末、職場の同僚3人との酒席で、こんな発言をした。
「映画やドラマなどを見ると、南朝鮮(韓国)はとても豊かなのに、われわれはあまりにも貧乏だ。いつまでこんな苦しい暮らしをしなければならないのか」
北朝鮮の人々は、家族またはよほど心を許した友人や知人の前でしか、このような発言をしない。それもごくプライベートな場に限られる。どこで誰が聞いているかわからないからだ。
パクさんにとって、この同僚3人は、信頼できる仲間だったのだろう。ところが、その中に裏切り者がいた。1人が保衛部(秘密警察)に通報したのだ。
保衛部は今月初旬、パクさんの家を急襲し、家宅捜索を行った。容疑はいわゆる「マルパンドン」(言葉の反動、反政府的な言動)だ。そして、多数の韓国ドラマや映画が保存されたUSBを発見し、パクさん一家を連行した。
(参考記事:「泣き叫ぶ妻子に村中が…」北朝鮮で最も"残酷な夜")問題はその時間帯だ。保衛部はあろうことか、パクさん一家を朝の出勤時間帯に連行した。多くの人々が泣き叫び抵抗する一家の様子を目の当たりにし、ショックを受けた。そして、口々にこんなことを語った。
「違法行為をして管理所に連れて行かれる人びとがいるという話はよく聞くが、家族全員が連行されるのを目の当たりにして、ゾッとした」
通常、このような連行は真夜中に行われる。町内の人びとは、朝になってもぬけの殻になった家を見て、何が起きたかを悟るだけで、その現場を見ることはまずない。だが、今回はその一部始終を見てしまったのだから、そのショックは計り知れないほどだっただろう。
(参考記事:男たちは真夜中に一家を襲った…北朝鮮の「収容所送り」はこうして行われる)今回は子どもたちも見てしまったようで、「どこかで変なことを言わないか心配なので、口止めをしなければならない」と、ある地域住民は語った。
一家の行方について、情報筋は語っていないが、地域の人々が彼らと再会することはもうないだろう。
(参考記事:若い女性を「ニオイ拷問」で死なせる北朝鮮刑務所の実態)
密告がはびこり、誰も信じられないことを改めて見せつけられ、地域全体が恐怖に包まれている。また、自分自身にも類が及ぶのではないかと心配する人もいる。たとえ韓ドラを見ていなかったとしても、パクさんと何らかのつながりがあったという理由で、捜査対象になりかねないからだ。