金正恩命令をほったらかし「愛の行為」にふけった北朝鮮カップルの運命

今月の北朝鮮は国家的行事が目白押しだ。まず9日には70年目の建国記念日(9.9節)があり、18日から20日までは南北首脳会談が開かれた。このような時期には「雰囲気を乱す事件、事故を1件たりとも起こしてはいけない」として、国内に厳重警戒体制が敷かれる。

そんな中、中国との国境に面した両江道(リャンガンド)の金亨稷(キムヒョンジク)郡で「大事件」が起きてしまった。しかもそこには「男女の関係」が絡んでいたようだから、関係者は穏やかではない。

「寝ていた」男女

現地のデイリーNKの内部情報筋によると、事件が起きたのは建国記念日を1週間後に控えた2日の午前0時ごろのことだ。郡の中心地には金日成主席、金正日総書記の巨大な太陽像(モザイク壁画)がそびえ立ち、夜もライトアップされているが、その照明が突如として消え、5時間にわたって最高指導者の姿が闇に埋もれてしまったのだ。

北朝鮮は、最高指導者の肖像画を事故や災害から守って命を投げ出した人を称賛するようなお国柄だ。逆に最高指導者に関連する事件は「1号事件」と呼ばれ、重大な政治事件扱いとなり、容疑者本人のみならず、周りの人まで厳しく処罰される。「1号」とは金正恩氏を意味し、彼の意に背いたり、反抗したりしたのと同等とみなされるのだ。

事件に青くなった郡当局は、総がかりで調査に乗り出した。

水銀灯と間接照明は消えていなかったので、原因は停電ではなかった。4つの照明に繋げられた電線だけが何者かによりペンチで切断された痕跡が発見されたのだ。中国国境に面したこの地域では、銅像や太陽像に対する破壊活動が過去にも起きている。

「午前1時ごろに…」女性証言

さらに調査を進めたところ、事件発生時刻と思われる1日の午後11時から2日の午前1時までの間に太陽像の警戒勤務にあたっていた保衛隊の男女2人が、仕事をサボって近所に住む友人宅で「寝ていた」ことが判明した。
「2人は友人宅の倉庫に武器を置いて部屋で寝た。午前1時ごろに太陽像に戻ったが、交代人員がやってこなかったので、保衛隊の事務室に武器を返納してそのまま家に帰ってしまったと言っている」(情報筋)

男性は「照明が点っていたかどうか記憶にない」と答え、女性は「午前1時ごろに照明が消えていたことに気づいたが、配電部が電気を止めたとばかり思っていた」と陳述したとのことだ。(参考記事:「男女関係に良いから」市民の8割が覚せい剤を使う北朝鮮の末期症状

情報筋は詳しく突っ込んでいないが、最高指導者に忠誠を誓うべき時間に、2人は愛を確かめ合っていたのだろう。

(参考記事:北朝鮮で少年少女の「薬物中毒」「性びん乱」の大スキャンダル

この件は両江道の労働党委員会に「1号報告」として報告され、2人は軍の保衛部の待機室に拘留され取り調べを受けている。重罪は免れないと見られる。

(参考記事:金正恩氏の「高級ベンツ」を追い越した北朝鮮軍人の悲惨な末路

一方、地元当局は事件の隠蔽に汲々としている。上部には事実を報告したが、地元向けには「大雨のせいで雨水が染み込み照明が消えてしまっただけの単純な事故」などと説明ししている。

地元民の間では今回の事件についての噂が急速に広まっており、当局は世論の動揺を防ぐために、虚偽の説明をして隠蔽を図ったものと思われる。

殴る蹴るの暴行

郡の労働党では非常拡大会議が開かれ、太陽像の警備を強化する方針が示された。具体的には次のようなことだ。

◯今後1週間、郡内の太陽像、1号油絵作品研究室、史跡物保存室、沿革紹介室などの警備担当者の思想動向を把握し、隊列点検と交代作業を行うこと

◯今月5日から毎日、警備担当者ではなくとも、郡の労働党、保衛部、保安署、女盟(朝鮮社会主義女性同盟)、職盟(朝鮮職業総同盟)、人民班(町内会)が持ち回りで2人1組で郡内をパトロールし監視を強化すること

◯1号作品がある機関の庁舎やその近辺の工場、企業所、機関の建物で夜間警備を行うこと

お隣の金正淑(キムジョンスク)郡では、銅像を守っていた警備担当者が若者に殴る蹴るの暴行を加え、瀕死の重傷を負わせるなど、銅像に関連した事件が起きたばかりだ。

金正恩氏「祖母の聖地」で半殺し暴力沙汰

中国との国境に面した北朝鮮・両江道(リャンガンド)の金正淑(キムジョンスク)郡。元々は新坡(シンパ)郡だったが、1981年10月に、金日成主席の夫人で、金正恩党委員長の祖母にあたる金正淑氏の名前が付けられた。この地は、生前の金正淑氏が革命活動を行った場所とされる。
祖国光復会のアジトとして使われていた写真館、軍需物資を隠していた水車小屋、秘密連絡書だった商店、日本の警察署、憲兵隊の建物などが、新坡(シンパ)革命史跡地に指定されている。1974年10月には金正淑氏の銅像が建てられた。

新坡革命史跡地は、白頭山女将軍(金正淑氏)がチュチェ26(1937)年春、桃泉里(トチョンリ、鴨緑江の対岸で現在の中国吉林省長白朝鮮族自治県)を拠点に活動され、国内深くまで党組織と祖国光復会の組織を拡大するための闘争を精力的に行った意味深い場所だ。(労働新聞 2017年12月25日)

そんな「聖地」において、凄惨な暴力事件が発生した。北朝鮮にも暴力団組織のようなものがあり、乱闘騒ぎもときどき起きている。(参考記事:【実録 北朝鮮ヤクザの世界(上)】28歳で頂点に立った伝説の男

ひとたび乱闘が起きると、死人が出るほど非常に激しいものになると聞いていたが、今年3月にはロシアの地方都市で北朝鮮労働者とタジキスタンの労働者が乱闘を繰り広げ、そのもようが動画に収められた。Vesti.ruが報じた動画には、石やシャベルのようなものを手に持ち、双方入り乱れて大暴れする様子が収められている。まるでヤクザ映画のようなド迫力である。(参考記事:【動画】北朝鮮労働者とタジキスタン労働者、ロシアで大乱闘

しかし今回の事件を起こしたのは、この「聖地」を守っていた警備隊である。隊員らが民間人の青年に暴行し、被害者は死の淵をさまよっているという。

現地のデイリーNK内部情報筋によると、事件が起きたのは先月18日のことだ。村の中心に住む20代男性が、聖地の北200メートル付近を歩いていた。ちょうどそこには、聖地を守る警備隊が詰めている哨所(検問所)があった。哨所は、郡の保安署(警察署)直属の警備隊が警備を受け持っている。

おりからの猛暑で少しでも楽な近道を行こうと、男性は警備隊に革命史跡地への道を通してくれと要求したが、拒否された。すると、まだ昼間なのになぜ通さないのだと抗議した。

こういうときにはタバコや食べ物をワイロとして掴ませるものなのだが、青年はひたすら抗議するばかりだった。それに腹を立てたのだろう。1人の警備隊員が殴りかかった。青年がそれに反撃するや、集団暴行が始まった。(参考記事:北朝鮮国内で「仁義なき戦い」…「軍vs突撃隊」流血の抗争

警備隊は青年を押し倒し、頭、首、胸に殴る蹴るの暴行を加えた。青年が意識を失ったのを見て慌てた警備隊員は、青年を車で病院に搬送した。しかし、26日の時点でも意識不明が続いている。

この革命史跡地と金正淑氏の銅像は、普段から武装した警備隊が24時間体制で歩哨に立つなど特別な管理が行われている。金日成氏や金正日氏にまつわる史跡地や、そこに建てられた銅像の損壊を防ぐために、周囲に検問所や監視塔を増設し、勤労団体などから人員を動員して警備隊、巡察隊を増員している。

実際、2011年12月には、この革命史跡地で建物と森を焼く火事が起きている。地元の保衛部(秘密警察)は放火によるものと見て当日現場にいた人々を対象に捜査を行ったが、結局は警備隊員の不注意によるものという結論に達したという。それ以降、警備が24時間体制となったという。

韓国の脱北者団体は2016年、中国との国境から近い北朝鮮領土内の銅像、史跡地周辺でドローンの飛行を行っている。(参考記事:北朝鮮メディア「脱北者がドローンで銅像を攻撃」と猛非難

また、北朝鮮国内でも銅像などを破壊しようとする動きが起きている。銅像が破壊されるとなれば、警備責任者はもちろんのこと、地方政府幹部全体の首が飛びかねない。その恐怖から警備を強化しているのだろう。(参考記事:「金日成氏を称える塔」爆破未遂に戦々恐々の北朝鮮当局

しかし、警備が厳重すぎて通行に支障を来すほどになっているが、金王朝にかかわる問題であるだけに、「改善」を提起すれば政治犯扱いされかねないため、誰も何も言えずにいるのが現状だ。

今回の事件を受けて、地元の警察幹部は青くなっている。警備隊の責任者のみならず、その上役の保安署の署長までが病院を訪れて医療関係者に「なんとかしてくれ」と頼み込んでいるような状況だ。

金正恩氏は、保安員(警察官)、保衛員(秘密警察)に対して、職権を乱用して金儲けをするな、住民に対する暴行、拷問などの人権侵害をやめるようにとの指示を下したと伝えられているため、幹部たちは処罰を恐れているのだろう。(参考記事:金正恩氏の「拷問部隊」が態度を豹変させた理由

近隣の村々には「この機会に警備隊の横暴をやめさせたい」という雰囲気があるという。ここでガス抜きが行われなければ、庶民のストレスがどのような形で爆発するかわからない。(関連記事:妻子まで惨殺の悲劇も…北朝鮮で警察官への「報復」相次ぐ

「男女関係に良いから」市民の8割が覚せい剤を使う北朝鮮の末期症状

米紙ワシントン・ポストが2017年11月17日付に、脱北者のインタビュー特集を掲載している。

東京支局のアンナ・ファイフィールド支局長が6カ月をかけ、韓国とタイで取材を重ねたもので、幼稚園児から学生、労働者、母親、医師、薬物密売人など、様々な年齢と職業の男女25人から聞き取りを行った意欲的な企画だ。

誕生パーティーで…

その中に、実にショッキングな証言が出てきた。2014年に脱北した薬物密売人が、次のように語っている。「私の主な仕事は、オルム(氷=覚せい剤を表す符丁)を売ることだった。当時、会寧(フェリョン)市に住む成人の70~80%ぐらいはオルムをやっていたと思う。私の客は、ごく普通の人々だった。警察官、保衛員、朝鮮労働党員、教師、医師たち。オルムは誕生日のパーティーや高校の卒業祝いのための、非常に良い贈り物だった」

北朝鮮で覚せい剤などの薬物が蔓延していることは、すでに広く知られている。

「皮膚感覚」から

しかし、どれくらい多くの人々が乱用しているか、その数的な規模が言及されることはほとんどなかった。上記のとおり、この密売人は会寧市の成人の8割にもなる人々が覚せい剤を使用していたと語っている。会寧市の人口は13~15万人前後とされているから、その8割が成人だとすると、ひとつの市で8万人強~9万人強が覚せい剤を使用しているということになる。

また、この密売人が「高校の卒業祝い」に言及しているように、北朝鮮では未成年者による薬物乱用も深刻化している。つまりは上述した推計よりも、乱用者はもった多いかもしれないということだ。

「男女関係」絡み

もちろん、これは一個人の「皮膚感覚」から出てきた数字であり、客観的なものではない。だが、これを「話半分」で捉えても、相当な数に上るのだ。

また、この密売人は次のようにも言っている。
「(覚せい剤は)気持ちよくしてくれて、ストレスを発散させてくれるし、男女の関係にも大きな助けになる」

日本においても、たとえば芸能人などが薬物乱用で摘発される際には、かなりの割合で「男女関係」が絡んでいる。そして、こうした分野に強いジャーナリストによれば、「男女間の快楽目的で薬物を使用する人ほど、使うのを止めるのは難しい」という。

(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち )

金正恩体制は薬物の密売を重罪と定め、摘発強化で根絶を試みているようだが、果たして抜本的な対策はあるのか。北朝鮮が薬物で汚染され尽くすようなことになれば、それは必ず、日本など周辺国の安全保障にも影響する。我々は今から、そのことに警戒心を持っておくべきだろう。

【画像】北朝鮮国内で覚せい剤を密かに吸引する様子
【画像】紙幣でパイプをつくって覚醒剤を吸引する様子